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「金の実用的価値」

2012年5月16日


 今週はまた金の基礎知識シリーズです。

第1回:「金の価値って何だろう?
第2回:「金の比較的価値

  金はその特性を利用していろいろな実用的分野でも使われています。その代表的なものは金線(Gold Bonding Wire)や金メッキ溶液(シアン化金カリウム)です。そして金歯としての歯科の需要などがあります。

 おそらく皆さんの印象からすると金の実用的分野はそれだけなのか、と感じると思います。まさにその通りなのです。金の実用的価値は、その派手なイメージからすると貧弱に感じます。金の加工用需要の約7割が宝飾品です。つまりそのままの金の形で用いられています。金の科学的特質によって材料として用いられている用途は3割弱にすぎません。この観点から、金の価値に占める「実用的価値」は比較的低いと言わざるを得ません。金の価値は、実用的価値以外の部分で決まっていると言ってよいでしょう。

 金の実用的価値を語る上で、その価値と基礎となる物質特性を上げておくとまずはその不変性が上げられます。これは言い換えると化学的に非常に安定しているということです。金は空気中や水中においても酸化しません。つまり錆びることがなく、金の輝きは永遠に保たれるということです。太古エジプト王朝時代のツタンカーメン王の金のマスクが未だに完全な形で残っており黄金の輝きを保っているのは、この金の安定性が最大の理由です。これが他のメタルであれば、遠い昔に朽ち果てて我々の目に触れることはなかったでしょう。

 金の比重は19.3で水の約20倍の重さ。融点は1063度で鉄の1535度、銅の1084.5度と比べて低く、加工しやすい特性があります。また1グラムの金を長さ3000mまで延ばすことができる展延性を誇ります。柔らかく伸ばすことが簡単で、金箔はまさにそういう特性を利用した使い方だといえます。金歯は金とパラジウムの合金が使われるのがメインですが、これは金の安定性といかなる形にも加工しやすいという特性があるからこその利用方法だと言えるでしょう。

 工業分野で最も一般的なものは金線(ゴールド・ボンディング・ワイアー)です。これは細く伸ばすことができる展延性とそして電気抵抗が小さいという特性が利用されている分野です。金の電気抵抗は2.4と銀の1.6に次いで低く電気を通しやすい特性があります。そのため細い線に加工してコンピュータの回路(CPU)やその他の電子部品の一部として用いられます。コンピュータや携帯電話などのスクラップに含まれる金が「都市鉱山」として注目を浴びていますが、まさにこの金線がそれに当たります。これなどは金の展延性、電気抵抗そして物質としての安定性といった特性ならではの利用方法だと言えます。しかし近年では金相場高騰や加工技術の発達により、銅のボンディングワイアーが代替品として用いられることが多くなってきています。また、ボンディングワイアー自体の付加価値が低く、比較的簡単に作れることから、新興国との競争で利益幅が小さくなり、かってはメジャーだった日本勢の一部は撤退方向にあります。

 またその導電性の高さと腐食に対する耐性を利用し、電子部品の伝導体やコネクタに金のメッキが利用されています。利用量は圧倒的に少ないですが、金の化学的特性を利用した用途としては、可視光、非可視光ともによく反射するために人工衛星の保護剤として表に貼られたり、宇宙飛行士の船外服のヘルメットのバイザーに薄膜として付着させて紫外線を防いだりという用途にも利用されています。

金の基礎知識シリーズ、今後もちょっとづ続けていきます。

以上


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 池水雄一氏は日本を代表する貴金属のトップディーラーである。大手商社、外銀などのトレーディングルームの第一線で活躍してきた。更に、海外での知名度も高い。ブルースというニックネームで親しまれ、業界の川上(鉱山会社)から川下(実需ユーザー)に至るまで幅広い友達の輪(ネットワーク)を築いている。

 仕事を離れれば二児の良き父、週末には八ヶ岳の別荘の自家農園で野菜作りから山登りにまで汗を流す。

 多忙なスケジュールにもかかわらず、毎朝"知る人ぞ知る"ブルースレポートというメール通信を書き続け、マーケット全般からグルメレポートまで多岐に亘る鮮度の高い情報を発信し続けている。

 その彼が、以前書き下ろした"ゴールドディーリングのすべて"という金の教科書をアップデート(改訂)するという。実に楽しみである。世に金に関する著作物は多いが、本当に金を知る人が書いた信頼できる本は見当たらないのが現状だ。金を真面目に知りたいと思う人には是非一読を薦める。