新たなる連載改訂を始めるにあたって


 あの幻の迷著「ディーリングのすべて」がこの世に出たのが1993年。はや14年の月日が流れました。ちょうど14年前クレディスイスから三井物産に移り、この本が出たのがその直後。そして今三井物産を去り、Standard Bankに移籍すると同時にこの本の改訂版を手がけようとしているのも何かの因縁かもしれません。当然のことながら、この14年間、マーケットは大きな変化がありました。当時は最新の情報であった内容も今では大きく変わってしまっています。にもかかわらず、それなりの需要があり、本屋で入手できなくなった以降は多くの人々から直接筆者のもとにどこに行けば買えるのかという問い合わせが、忘れた頃にやってきていました。私自身の手元には一冊あるだけ。業界各社ではコピーをしては新人に読ませるということが何年も続いていたのが現状でした。

 この間に外部環境も大きく変わりました。詳しくは本編に書きますが、15年にわたる低迷を脱したゴールドの相場は現在7年間にわたる過去例をみない強気相場になっています。また世の中も当時はまだ影も形もなかったインターネットが情報流通の構造を大きく変えてしまいました。情報は日々刻々変わり、それが個人のベースでも享受できるようになっています。ようやく出始めたPCを手に入れ、ワープロソフトで原稿を打ち、表計算ソフトに驚愕した当時とはそれくらいの差があります。当然のことながらゴールド・マーケットの構造そしてそれを巡る環境にも大きな変化がありました。

 筆者としては本の内容がどんどん古くなって申し訳ないなあ、という気持ちでいたのですが、かといって商業ベースで売れるような本でもなく、マーケットがどんどん変わっていくなか、あの本だけは14年前に止まったままでした。それが昨今のコモディティーブーム。この本に対する問い合わせも増えていきました。それに比例するようにヤフオクにて1000円台でオファーされていたものが、直近ではどこかで17000円なんて声も聞き、(まさかそんな価格で本当に取引されたとは思いませんが。(笑))コモディティ・ブームもここまで来たかと、少し呆れておりました。

 少しでも参考にしてくれる人がいる以上、とにかく内容をちゃんと現状のマーケットに沿ったものにしたい、という私の思いと、折からのコモディティー・ブームに乗って、今回、この連載を始めることとなりました。一年くらいかけてゴールドディーリングのすべての内容を一新するのが目標ですが、その都度マーケットに関しておもしろそうな話があれば、横道にそれることもあえてやろうと思っています。どんな形の本になるかは出来上がってみないとなんともいえません。また本とできる頃には、このコモディティ・ブームも一段落しているかもしれません。しかしながら、新しいこの連載および将来まとめられるかもしれない新しい本が、すこしでもゴールドに興味を持ってくれた人々と、そしてゴールドに携わるすべての業界の人々の役に立ってくれるようなものになれば、それに増す喜びはありません。