新たな章に入るのに当たって、Bruceの一言
2009年2月10日

 一年をめどに、と考えていたのが、連載を始めてはや一年半の時間がすぎてしまいました。あっと言う間でした。とりあえず、貴金属の需給を中心とする基礎知識をおおまかながらカバーできたかな、と思います。今週からは、いよいよ、というか、ようやくというか、実際にその貴金属が取引される「市場=マーケット」に関して書いていこうと思います。

 この一年半の相場の動きはマーケット自体を大きく換えるほどの激震と言ってよいものでした。マーケットは生き物であり、日々変わっていくものですが、2007年からの変化のスピードはおそらくそれ以前の20年間のマーケットの変化を超えるほどのものでした。実はこの項は一番最初にある程度書いていたのですが、もはやそれも大幅に書き換える必要が出てくるほどです。今後もマーケットはどんどん変わっていくでしょう。ですから、これから書いていくことは、あくまで本稿執筆時点のマーケットの状況であると割り切って読んでもらえれば、と思います。

第2章 ゴールド・マーケットとは。‐いかに価格が形成されるのか?

ロコ・ロンドン・ゴールド・マーケット

 さて今週から実際現在のゴールド・マーケットがどのようになっているのか見ていきましょう。連載の一番最初にも書きましたが、15年前と現在ではマーケットは様変わりしています(またそれから現在も激しく変わりました!)。もし幻の書「ゴールドディーリングのすべて」を持っているという、とってもとっても偉大な方がおられましたら、ぜひ一度読み返していただき、現状との比較をしてもらうのも一興ではと思います。

1. ロコ・ロンドン・ゴールド・プライスとは

 ゴールドが900ドルを突破。このような表現をよくきかれると思います。しかし具体的にこの900ドルはいったい何を指すのかちゃんと具体的に説明できる人はそれほど多くないのではないでしょうか。この900ドルは何でしょうか。

 少し蛇足になりますが、物の価値のもっとも基本的な物差し、基準は「通貨」です。たとえば、我々は物の価値を判断するときに、まず参考にするのはその物の価格、つまり通貨に換算した場合の価値となります。カボチャが一個300円で、スイカが一個500円であれば、カボチャ一個よりもスイカ一個のほうが価値は高い、と評価されていることが子供でもわかります。

 基本的に同質の物であっても時や場所によってその価値が変わってしまうということも我々はこの「通貨を通した価格」によって知ることができます。たとえば、同じスーパーで先月はキャベツが一個198円だったものが、今月は398円になっているとか、同じ一坪の土地が東京都杉並区では200万円なのが山梨県小淵沢町では5万円であったりします。これら物の価値はすべて、「通貨」を通じて我々は認識しています。

 上の例での通貨はすべて日本円であり、日本という国だけで主に流通している通貨です。それではこのような通貨の価値はどのようにしてはかるのでしょうか。

★池水氏によるブルースレポート
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1. ロコ・ロンドン・ゴールド・プライスとは(2)
2009年2月18日

 皆さんもよくご存じの通り、第二次世界大戦後から現在に至るまで、世界経済は米国を中心に動いています(2008年のサブプライム問題からの金融不安で、この米国中心の経済体制が急速に崩れつつあります)。

 世界各国の通貨の価値を計る基準となっているのが米国の通貨、米ドルです。日本の通貨、日本円も米ドルとの交換比率という形で、価値が世界経済の中で明示されています。これは外国為替(Foreign Exchange)と呼ばれて、通貨にもよりますが、たいていは米ドル1ドルに対して、その他の通貨がいくらあれば交換できるかという形で示されます。

 たとえば、今ドル・円が90円と言った場合は、1米ドルを手に入れるために日本円90円が必要ということです。つまり、1米ドルの価値は90日本円に等しく、逆にいうと100円は約1.11米ドルということになります。

 外国為替レートは常に変動しており、その時点でのマーケットの総意がその時点のレートに反映されていると考えることができます。ちなみに大英帝国に関連する国の通貨は、英国ポンドをはじめとして、オーストラリアドル、ニュージーランドドル各通貨一単位に対するドルで表されています。また最近ではユーロも1ユーロが何ドルかという表示になっていますね。

 さて、長い前置きになりましたが、ゴールドも外国為替の一種と考えてもかまいません。我々がゴールド900ドルという時は、ゴールドと米ドルとの交換率(まさにexchange)のことを言っています。つまり、外国為替と全く同じ仕組みです。この仕組みには大前提として、以下の決まりがあります。

 ・1トロイオンスのゴールドの米ドルとの交換比率である。
 ・ゴールドはロンドンにある銀行口座での付け替えである。
 ・米ドルはニューヨークにある銀行口座での付け替えである。
 ・スポット取引の場合は二営業日後での決済である。

 トロイオンスという聞きなれない単位が出てきました。これは貴金属の計量に用いられる単位で、toz やozという表記がなされます。1トロイオンスは31.1035グラムです。トロイというのは中世フランス・シャンパーニュ地方の商都トロイ(Troyes)に由来すると言われています。

 ゴールドが900ドルというときは1トロイオンス=31.1035グラムのゴールドが900米ドルと交換できるということになります。実際の取引ではたとえばあなたが、誰からから5,000 tozの金を900ドルで買ったとすれば、取引の二営業日後に、あなたの持っているロンドンのゴールド口座に5000toz= 155.5175キログラムのゴールドが売り手から付け替えられ、あなたは売り手のニューヨークの銀行のドル口座に450万ドル( 5,000toz ×900ドル) を振り込むことになります。

次回に続く

★池水氏によるブルースレポート
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1. ロコ・ロンドン・ゴールド・プライスとは(3)
2009年2月25日

 通貨であれば、その付け替え場所はその国の経済の中心地になるのが通例です。たとえば米ドルはニューヨーク、日本円は東京、英ポンドはロンドン、スイスフランはチューリッヒといった具合です(ちなみにユーロはフランクフルトですね)。

 ゴールドの場合は通貨のように国籍はありません。(これが金の大きな魅力の一つになっていることはもうご存知ですね)。しかしながら歴史的経緯からロンドンがその場所に選ばれています。

 「ロコ・ロンドン」という表現は「ロンドン渡し」という意味なのです。「ロコ」は「場所」を意味します。英語のlocalが元であるとかラテン語から来ているといった話があります。ゴールドは実際に現物も存在し、ロンドン以外の場所での受け渡しも存在します。そのため「ロコ・ロンドン」という風にその価格の条件を明示しているわけです。当然のことながら、「ロコ・東京」「ロコ・香港」といった価格も存在しますがそれはあくまでローカルで特殊な価格であり、世界のゴールド取引の基本は「ロコ・ロンドン」です。

 なぜロンドンなのでしょうか。イギリスはゴールドの生産国でも消費国でもありません。しかしながらまず世界で最初に金本位制を採用した国であること、歴史的に金の輸出入を自由化したこと、などの政策的な面。そして長らくイギリスが世界貿易の中心地であり、金融市場でもそうであったこと。そのため保険、海運、通信なども格段に発達していたことが挙げられます。

 そして何よりも、世界一のゴールド産出量を誇った南アフリカ、ゴールドラッシュが起こったカリフォルニアを抱える米国、そして英連邦のオーストラリアなど、世界の主たる金生産国が揃って英国の植民地であったことが挙げられます。ということでロンドンが今もゴールド取引の中心地になっています。

 これは後日詳しく触れたいと思いますが、ロンドンにはLondon Bullion Market Association(LBMA)という組織があり、ロンドン市場での取引のルールを含め、ロコ・ロンドン取引の円滑な運営をおこなっています。この組織はあくまでロンドンの市場のメンバーによる自主的な組織ですが、Bank of Englandが監督的立場にあります。

 ロンドンにおいてゴールドの取引が開始されたのは1684年にMocatta and Goldsmids社が設立された時にまでさかのぼります。しかし本格的にその役割を決定付けたのが、1897年のSilver Fixing(銀の値決め)、そして1919年のGold Fixing(金の値決め) の開始だと言われています。

 その後ロンドンはOTC(Over the Counter :相対取引)の中心地として発展を続けていきますが、LBMAが設立されたのは1987年。ビッグバンとよばれたFinancial Service Actが英国にて施行された後ですから、生まれてまだ22年。ロンドン市場の歴史からはまだまだできたばかりと言ってもよいでしょう。

★池水氏によるブルースレポート
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2. ロコ・ロンドン・ゴールド・マーケットはどこにある?
2009年3月11日

 ロコ・ロンドン・ゴールド・プライスはロンドンで受け渡し(実際には帳簿上での付け替え)をする条件の1トロイオンスの金と米ドルとの交換比率であることを説明してきました。

 ではこの価格はどこで成り立っているのでしょうか。ロンドンという地名が入っているために地理的なロンドン市場と混同されがちですが、ロコ・ロンドン・プライスでの取引は世界中でなされています。

 これは為替の取引を考えてもらえれば一番わかりやすいかもしれません。ドル円の為替は太陽とともに24時間世界を駆け巡ります。一日はオーストラリア、ニュージーランドから始まり、東京、香港、シンガポール、そしてチューリッヒ、ロンドンと取引している銀行が変わっていき、最後はニューヨークになり、一日を終えます。そしてそれとほぼ同時に翌日のオセアニアが始まるといった具合です。ゴールドのマーケットもこれとほぼ同じと考えることができます。

 ロコ・ロンドンの取引をする「ディーラー」企業(海外では銀行・証券といった金融系がほとんどです。これはまた章を変えて説明するつもりです)が集中しているのが、世界に何箇所かあり、それがその地名をとって便宜的に「東京市場」「香港市場」「シンガポール市場」などというように呼ばれることがあります。しかし物理的にそういった市場があるわけではなく、あくまで市場参加者間で相対の取引が活発に行われている場所、といった意味です。

 「ロコ・ロンドン・ゴールド東京市場」というのは結構無理があります。というのは東京のディーラー間だけでの取引は逆に少なく、同じ時間帯のシドニー、香港そしてシンガポールといったところのディーラーたちとの取引が多いからです。そういう意味で「何とか市場」という名前を無理矢理つけるのであれば、「ロコ・ロンドン・ゴールド極東市場」というのがもっとも適正でしょう。そういった意味で「ロンドン市場」というときはロンドン時間帯の、「ニューヨーク市場」というときはニューヨーク時間帯の、ロコ・ロンドンの取引と考えるのが妥当です。

 マーケット参加者が集中している場所は、これも為替とほぼ同じだと考えてかまいません(外国の銀行では為替部隊の中でゴールドも取引をしているところが多いのです。ゴールドプライスは、ゴールドと米ドルの為替であることを考えると当然ともいえますが)。時間帯順に、シドニー、東京、香港、シンガポール、チューリッヒ、ロンドン、そしてニューヨークがその場所といえます。

★池水氏によるブルースレポート
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各市場の地域的特徴とその主なプレイヤー
2009年3月18日

 今週から簡単に各市場の地域的特徴とその主なプレイヤーをみていきたいと思います。私が実際に経験している過去20数年間の歴史の中でも、各地のマーケットの重要性は大きく変化してきました。過去から現在に至るまでの歴史を考えながら各地のマーケットを俯瞰してみましょう。

 【極東市場】 シドニー、東京、香港、シンガポール
 【北米市場】 ニューヨーク
 【ヨーロッパ市場】 チューリッヒ、ロンドン

 主に取引参加者が集中するのが上記の都市になります。そして以上の順番でロコ・ロンドン・ゴールド価格は24時間太陽とともに動いています。これはドル円などの為替と全く同じと考えていいでしょう。ただ最近はGLOBEXと呼ばれるNYMEXのシステム取引の影響力が大きくなり、それがマーケットの重要な部分になりつつあります。具体的に一週間の相場の流れを時系列的に見てみましょう。

「現在のゴールドマーケット24時間の動き」

 月曜日の始まりは、地球の時間的にはニュージーランド・オーストラリアのいわゆるオセアニアです。昔はシドニーの少数のトレーダーが最初に価格を提示し始めたものでした。しかし現在では、もはやシドニーのマーケットは実質的に存在せず、一週間の始まりは東京時間の午前8時(サマータイム時は東京の午前7時)に始まるCME GLOBEXにより、一週間の貴金属相場が始まります。

 そして、その一時間後に東京工業品取引所(東工取)が始まり、実質的にこれが極東のマーケットの始まりとなります。東京時間の午前9時、厳密にいうと東工取先限(さきぎり)が寄り付く午前9時10分がマーケットメーカー(誰に聞かれてもtwo wayで価格を提示する業者)が価格を出し始める時間です。

 しかしながら最近ではマーケットメーカーが直接にお互いを呼び合って取引をすることはまれになり、EBS(Electric Broking System)と呼ばれるコンピュータープラットフォーム上にて大方のロコ・ロンドン取引が成立するようになっています。

 EBSは24時間使われており、参加者はマーケットメーカー、マーケットテイカー(価格は提示しないが、市場の価格を叩いて利用する業者)を問わず、市場参加者として十分に取引できるだけの与信を取引相手からもらうことができるのであれば、指値をしたり、またそこにある価格をヒットすることもできる取引システムです。

 昔はボイスブローカーと呼ばれる人間が実際に仲介して取引を成立させることが主でしたが、現在は、ロコ・ロンドンの取引の大きな部分がこのEBSを経由していると思われます。

★池水氏によるブルースレポート
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各市場の地域的特徴とその主なプレイヤー(2)
2009年3月25日

 東京時間午前9時の東京工業品取引所(東工取)オープニングの後は、午前11時に東工取の前場が終わります。基本的に東工取の後場が始まる12時半までの間は、東京勢が昼休みで、静かな日は一人だけディーラーを残して外にランチに出かけることもあります。ただこれは東工取がしまっているだけで、香港、シンガポールなどほかのアジアの連中には関係ありません。しかし、やはり東京がやっていないということで、この時間帯は静かになりがちです。12時半に東工取の後場のオープニングが終わると、あとはヨーロッパ勢が入ってくるまでは、基本的に静かになることが多いのです。

 マーケットが再び動き出すのはヨーロッパ大陸、特にその昔「スイスの小鬼」と呼ばれた連中(チューリッヒのインタレスト)が入り始める午後3時過ぎ頃から。

 昔はスイスには三大銀行であるSBC(Swiss Bank Corporation/UBS(Union Bank of Switzerland)/CS(Credit Suisse)が存在し、この時間帯は彼らからのオーダーが相場を動かすこともしばしばありましたが、もう10年以上前にSBCとUBSが合併してUBS (United Bank of Switzerland、同じUBSでもちょっと単語が変わっています)となり、現在は三大銀行から二大銀行になり、最近ではUBSとCSの合併も噂されるまでに時代は変わってきています。

 昨今のマネーロンダーリングの問題から歴史あるスイスの銀行の匿名性も米国の対テロ戦争の圧力から、どんどん失われつつあります。金融危機によるUBSの不調も伝えられ、スイス勢の市場における影響力も弱まりつつあるというのが現状です。

 東京時間の午後5時になるとロンドン市場が正式にオープンします。午後4時ごろになるとロンドンの早起きの人々は市場に参加し始め、午後5時から5時半の間は極東のクロージングとロンドンのオープニングが重なり、現在ではもっとも活発な時間になることが多い時間帯です。東京午後5時30分には東工取が終わり、それと同時に東京のトレーダーたちも基本的にブックを締めます(取引を終了)。また香港やシンガポールのデスクも顧客のオーダーはロンドンが始まる時にロンドン支店にパスするのが基本です。

「ロンドン市場」

 ロンドン市場はロコ・ロンドンの名前が示す通りゴールド取引の世界の中心地と言ってもよいでしょう。はじめに説明しましたが、銀行間のゴールド取引の帳簿上のゴールド受け渡しはロンドンにある銀行にて行われます。そのためこの「ロコ・ロンドン取引」のルール作りやそのモニター、そしてロンドン市場での取引慣行などはLBMA (London Bullion Market Association)により、厳格に管理運営されています。そしてロンドン市場のみならず、世界の他の地域でもそのルールが世界のルールとして尊重されています(LBMAに規定されているマーケットのルールその他に関しては別項として記したいと思います)。とりあえず今回は一日の流れとしてのロンドン市場。ロンドン午前8時、東京時間の午後5時(サマータイム時は東京午後4時)にロンドン市場がオープンします。

 途中午前の値決め(AM Fixing ロンドン時間午前10時30分)をはさんで、PM Fixingまでマーケットは続けられ、PM Fixingと同時にロンドンの時間は正式には終わり、マーケットの中心はニューヨーク市場にバトンタッチされます。ただし、現実的にはロンドンはほぼ午前中でそのマーケットの中心としての役割を終えて、午後はニューヨーク時間帯になります。

★池水氏によるブルースレポート
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「値決め」Fixingとは
2009年4月1日

 今週は先週少し触れたLondon Fixingについてもう少し詳しく触れましょう。


 ロンドン時間の午前10時30分(東京時間午後7時30分)にGold  AM Fixingが行われます。これは日本語では「午前の値決め」と訳されていますが、そのまま「AMフィキシング」というほうがわかりやすいかもしれません。ちなみにPM Fixingは午後3時。

 Fixingとは日本語の意味でもっとも近いのはいわゆる「せり」、相場用語でいうと「板寄せ」と呼ばれる売買手法です。ある特定の価格で、市場参加者が買いたし、売りたしの意思表示をして、その売買の数量が見合うところで価格を決めるというやり方です。貴金属の世界ではこのロンドンでのフィキシングが、もっとも透明性のある指標的な価格とされています。

 当然、日本の鉱山会社の建値のように、鉱山会社から一方的に発表されるものではなく、オーダーを入れれば誰でもこのフィキシングの価格で取引ができるものであり、それが世界中の人々がフィキシングを長期契約のベースプライスとして利用する最大の理由です。ヘッジのできない指標価格にはまったく意味がありません。その意味で、現在、世界中でスポットの価格として誰でも公正にヘッジができるものはロンドン・フィキシングをおいてほかにはないと言えます。

 数年前まではロスチャイルド社の「黄金の間」という部屋にフィキシングメンバーの代表が集まり、そこから各社のディーリングチームに電話をつないでいました。フィキシングメンバー以外は、最終的にはフィキシングメンバーの一社にフィキシングオーダーを出し、フィキシングメンバーは顧客から集まったオーダーの売り買いを相殺し、余った部分だけをフィキシングに出すことになります。それを各フィキシングメンバー持ち寄り、売り買いの数量がほぼ見合うところでフィキシングプライスを決めます。

 売り注文が多ければ、価格を下げ、買い注文が多ければ価格を上げることによってそれがほぼバランスする均衡点を探します。もちろん完全に均衡することはまれで、たいていは数千オンスのバランスをフィキシングメンバーが引き取ることによって、値段が決定されることが多いようです。

 ロスチャイルド社が ゴールド・ビジネスから撤退して、この「黄金の間」が使われることもなくなりました。フィキシングメンバーも年を追って変わっていきました。もともとのイギリス系のマーチャントバンクが、米系、欧州系の大きな投資銀行に実質的に買われて、その名前が変わったり、自らの判断でほかの銀行にその権利を売り渡したりと、過去は盤石と見られていたプレーヤーがこうやって変わって来ているほど、近年のマーケット環境の変化は激しいと言えるかもしれません。30年前、20年前に誰が歴史的にフィキシング議長の地位にあったロスチャイルド社が相場からの完全撤退することを予測したでしょうか。

 現在のゴールドフィキシングのメンバーは、Bank of Nova Scotia - ScotiaMocatta(スコーシア・モカッタ)、Barclays Capital(バークレイズ)、HSBC Bank USA London Branch(HSBC)そしてSociete General(ソシエテジェネラル)です。そして議長の役割はこのメンバー間での持ち回りになっています。

Silver Fixing

 銀のフィキシングも同じくロンドンにおいて行われています。しかしこれは金とは違って一日に一回、ロンドン時間の午後12時です。銀のフィキシング議長はスコーシア・モカッタ、メンバーはドイツ銀行、HSBCの三社で行われています。

Pt & Pd Fixing

 PGMのフィキシングはLPPM(London Platinum Palladium Market)の管轄下でおこなわれています。午前9時45分と午後2時の二回行われ、議長はStandard Bank(スタンダードバンク)、メンバーはEngelhard Metals(エンゲルハルド・メタルズ)、Goldman Sachs(ゴールドマンサックス)、HSBCの四社です。

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各市場の地域的特徴とその主なプレイヤー(3)
2009年4月8日


「ニューヨーク市場」

 ニューヨーク市場はロンドン市場のようにLBMAのような団体があってマーケットを規定しているわけではありません。すべては世界最大のGold先物取引所であるナイメックス に沿ってマーケットが動いていると言ってよいでしょう。


 ロンドンのお昼を過ぎるころナイメックス(NYMEX :New York Mercantile Exchange)のフロア取引が開始されて、ニューヨークの取引時間が始まります。上の表でみればわかるように取引所のフロアでフロアトレーダー達(日本語でいうと「場立ち」ですね)が声を張り上げながら取引を開始する時間は、各メタルが少しずつ微妙にずれています。ゴールドとプラチナは午前8時20分から、シルバーはその5分後の8時25分から、パラジウムはまたその5分後の8時30分分からです。

 ニューヨーク市場の最大の特徴はやはりこの先物市場にあります。アジア、ヨーロッパといったほかの時間帯の取引の中心はあくまでOTC(Over the counter:相対取引)のロコ・ロンドン取引がその中心になっています。アジア時間には東工取も存在していますが、その絶頂期であった90年代であってもやはりロコ・ロンドン・スポットが主で、それに従ずる形で東工取が存在していたと言えます。つまり東工取の価格は、裁定取引業者を介したロコ・ロンドンの価格によって決まっていたと言ってもかまわないくらいの力関係でした。東工取の取引量が大幅に減少してきた近年ではその傾向はさらに強くなっているといえます。そしてロンドンはもちろん、ロコ・ロンドン取引のメッカであり、過去何度も金先物の上場が試されては失敗して来ました。

 ところがニューヨークはそのマーケットの構造が根本的にほかの市場と異なります。この市場はまず「先物ありき」なのです。ほかの市場のようなロコ・ロンドン市場はほとんど存在していないと言ってよいでしょう。ほとんどの取引はナイメックスに集中して行われています。OTCで特定の相手と取引をするというスタイルではなく、取引所にすべての取引が集中していると言ってもよいでしょう。レバレッジの効く先物であるために、値動きも荒くなりがちです。一昔前までは相場の流れを変えるような大きな動きはたいていニューヨーク時間帯に起こっていました。

 もちろん今でもその傾向は大いにありますが、ナイメックスのコントラクトがCMEのGlobexというプラットフォーム上で行っているコンピュータ取引でほぼ24時間になっているために、アジアやヨーロッパの時間帯でもニューヨークと同じような大きな動きが出るようになっています。ニューヨーク時間帯は今ではフロアトレーダーを介したフロア取引とGlobex上のコンピュータ取引が同時進行しています(NYMEXはこれをサイドバイサイドside by sideと呼んでいます)。

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各市場の地域的特徴とその主なプレイヤー(4)
2009年4月15日


「グローベックス:Globex」

 私がゴールドマーケットの中に入って20年以上の時間が経ちました。マーケットの構造は最初の15年間、基本的に全く変わりませんでした。ところが過去5年、驚くペースでマーケットは変わっていきました。

 そのマーケットの変化の最大の原因は、グローベックス(Globex)であると考えます。現在このシステムによって、東京時間の午前7時15分から8時までの間のブレイクを除いて(夏時間はこの6時15分から7時)、一日中ナイメックス(NYMEX)の貴金属のコントラクトが取引できるようになったのです。

 それまではアジアのマーケットはロコ・ロンドンと東京工業品取引所(東工取)のマーケット。ロンドンはロコ・ロンドンのみのマーケットでした。そこにNYMEXが入り込んだのです。特に、主にNYMEXで取引をしていたファンドにとってもこれは朗報でした。

 それまでは東工取という円建てで非常にローカルな市場に直接的、間接的に流動性を求めて参入していたのが、彼らのホームグランドそのままの形で、アジアやヨーロッパでも取引ができるようになったのです。Globexの取引が非常に活発になるのにそれほど時間はかかりませんでした。

 そしてこれは逆に東工取からNYMEXへの流動性の流出も引き起こしました。Globexでの取引が増えるにつれ、その影響力も強くなり、値動きもまたニューヨーク時間帯に似た大きなものになってきました。ロコ・ロンドン・スポット・マーケットが中心であれば、それほど大きな価格の動きにはなりにくいものです。今取引された価格によって次の価格が決まります。ほぼ決まったスプレッドでほぼ決まったマーケット参加者がおのおの価格を出しているマーケットでは、価格と価格の間には連続性が存在していたのです。

 ところがNYMEXではしばしば価格の連続性など無視した動きが起こります。不特定多数の市場参加者がてんでばらばらに注文を市場に流す状態であるわけで、その注文によっていわゆる価格が飛ぶという事態が日常茶飯事に起こっているのです。Globexのなかった時代はアジアやロンドン時間においてそのようなことが起こることは滅多にありませんでした。ところがGlobexが隆盛になって今は、アジア・ロンドンにおいてもそのようなことがまさに毎日起こっています。

 ニューヨーク時間帯と同じように、もしこのままNYMEXへの取引が集中していけば、もはやスポットでマーケットメークをするということの意味はなくなって来る可能性があります。取引はNYMEXとEBS(Electric Broking System)に集約されていく、そういう将来が見えてくるのです。

★池水氏によるブルースレポート
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その他のローカルマーケット
2009年4月22日


 さて先週まではゴールドマーケットの世界の中心について現状を説明しました。これが本流だとすれば、その傍流とも呼べるマーケットが存在しています。

 ここ数年の金価格の上昇に乗って世界各地でゴールドの取引を開始した取引所があります。その多くは残念ながら鳴かず飛ばずですが、中にはそれなりの成功を収めて、今後の展開次第では世界の相場形成に少なからず影響を与える可能性を秘めているマーケットもあります。そういった市場を簡単に紹介しておきましょう。詳しくはまた別の機会にしたいと思います。

●中国

上海黄金交易所(Shanghai Gold Exchange :SGX)

上海期貨交易所(Shanghai Futures Exchange:SHFE

 SGX(上海黄金交易所)は現物の金およびプラチナの取引所です。SGXが始まる以前は、中国では中央銀行にあたる中国人民銀行が、国内の金価格を決めていました。

 しかしながらこの価格改定が、昔は一カ月に一度であったり、それが改善されて二週間に一度まで短縮されたりしましたが、ご存知のように世界の金価格は刻一刻毎日動いています。一晩に数十ドル動くこともままあります。国内の公定価格が一ヶ月間動かなかったらどういうことが起きるでしょうか。

 当然のことながら、中国国内価格が国際金価格から大きく乖離することが頻繁に起きていました。そうなるとその値差のために金の密輸入・密輸出が頻繁におこなわれることになります。特に香港とシンセンの国境では、大規模におこなわれていました。たとえば人民銀行の公定価格よりも国際市場価格が50ドルも上昇したとすると、公定価格で金を買うことができる人たちは、それを持って香港に行って金を売却すれば50ドルもの利益を得ることができます。逆もまたしかり。公定価格のほうが高い場合は香港から金を密輸して、人民銀行に高い値段で売ることによって利鞘を得ることができます。

 こういった取引が横行し、人民銀行も価格の改定をなるべく柔軟におこなうことになりましたが、刻一刻と変わる相場にいくら改定期間を短くしてもついていけるはずもありません。最後に下した判断は、「価格決定は市場に任せる」、という我々からみれば当たり前の結論にいたったのです。

 2002年10月30日、上海黄金交易所:SGXが108社のメンバーで設立されました。現在のメンバーは162社まで増加しており、貴金属製品の加工業者、精錬業者、貿易業者、投資業者など多岐にわたっています。このSGXで金を取引すれば増値税と呼ばれる付加価値税を免除されることから、その後は中国における金現物取引はほぼSGXに集中されることになっています。全メンバーを合わせると中国の金産出量の80%、使用量の90%、精錬量の90%を占めると発表されています。

 現物取引のSGXに対してSHFEは先物取引所で、銅の先物取引においてはすでに世界の相場に大きな影響を及ぼす取引所になっていましたが、2008年1月から金の先物取引も開始されました。上場当初はオンス換算で100ドルものプレミアムがつき、世界の金取引関係者から大きな注目を受けたことはまだ記憶に新しい出来事です。

 2009年4月現在は、ほぼほかのマーケットから大きく乖離しない価格になっています。しかしながらまだ海外からの本格的な参入はなく、閉じられたローカルなマーケットであると言っていいでしょう。

★池水氏によるブルースレポート
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その他のローカルマーケット その2
2009年4月28日

●インド

MCX(Multi-Commodity Exchange of India)

NCDEX (National Commodity & Derivatives Exchange)

 世界最大の金需要国インドの先物取引所で金を上場しているのがこの二つの取引所です。MCXのほうが取引高は圧倒的に大きく、2008年の世界の先物取引所売買高ランキングでは10位の東工取を上回り8位にランクされています。金だけの取引高を見ても今や東工取を上回り、NYMEXに次ぐ世界で二番目の取引所になっています。

●UAE

DGCX(Dubai Gold & Commodities Exchange)

 中東で唯一、金を上場している取引所です。ドバイは中東、サウジアラビアやイラン、そしてインドのムンバイに対する金の中継地としての役割を果たしており、昔から金取引は盛んです。先物取引としては未だ大きく注目に値するものとはなっていませんが、ロンドンから金取引に長年従事してきたベテランCEOを雇い、積極的にDubai Good deliveryのbar登録を世界中のrefinery(精錬業者)に呼びかけるなど努力を続けています。

●トルコ

IGE (Istanbul Gold Exchange)

 トルコは現在では金の一大輸入国ですが、1993年に現地の外為法が改正され、金の輸出入が自由化されたことをきっかけに金の流通量が飛躍的に伸び、1995年7月にIGEが設立されました。先物取引ではなくSGEと同じような現物取引がおこなわれています。一日平均の取引高はだいたい5万オンス=約1.5トンで、現物の取引とすればまずまずの数量が取引されているといえます。

●米国

NYSE LIFFE

 少し背景がややこしいのですが、NYMEXに対抗してGold Futures Contractを取引していたCBOT(Chicago Board of Trade)がCME(Chicago Mercantile Exchange)と合併しました。ところがそれ以前にCMEはNYMEXをその傘下に入れたことによってCME GLOBEXというトレーディング・プラットフォーム上にNYMEXの金・銀・プラチナ・パラジウムのcontractを乗せていました。

 CBOTとの合併のために同じCMEグループの中で二つの同じ貴金属の取引を上場するわけにはいかず、CBOTのGold Futures はNYSE (New York Stock Exchange)グループに売却することになりました。それがこのNYSE LIFFEの金・銀contractsです。2008年9月からNYSEでの取引が始まっています。

★池水氏によるブルースレポート
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貴金属マーケットの裁定理論
2009年5月13日

 前回までは世界各地のロコ・ロンドン・ゴールドマーケットとそれ以外の先物・現物の取引所を紹介してきました。その中でわれわれにとって一番肝心な部分に触れてないと思われた方がおられるかもしれません。

 まさにそのとおり。実は東京工業品取引所(以降「東工取」)に関してはまだ詳しく触れていません。東工取に関してはこのゴールデンウィークあけからシステムが変わり、取引時間も大きく延長されたため、この大変革を機会に東工取自身およびそのまわりのマーケット環境がどう変わっていくのかを含めてここからのマーケットの裁定理論と絡ませて書いていきたいと思います。

1. 多種多様な金価格

 それでは今週から実際の貴金属マーケットのオペレーションを見ていきたいと思います。これまで紹介してきた通り、世界には数多くのゴールドマーケット(この場合、取引所)があります。そのそれぞれが同じ「金」=ゴールドを取引していながら、ずいぶんとその「見た目」が違う場合が多いものです。

 たとえばロコ・ロンドン・ゴールド価格は、1オンス(31.1035グラム)あたりのゴールド(金純分=100%)をロンドンにおいて米ドルとの交換する比率、つまり「為替」であると説明しました。ゴールドが900ドルと言うときは、900米ドルとロンドンにある1オンスのゴールドが交換できるということでした。これがスポット(直物)価格の場合は、取引が成立した二営業日後にゴールドと米ドルを交換するという条件になります。

 ところが同じ「金」を取引する東工取はどうでしょうか。まず建値が大きく違います。オンス単位ではなくてグラム単位。米ドル建てではなくて日本円建て。900ドル/オンスではなくて2900円/グラムといった表示になります。

 ロコ・ロンドン・スポットは二営業日後決済であったのに対して、東工取の期先2010年4月限(ぎり、と読みます。取引限月のこと)は2010年4月30日決済という条件の価格になります。また、引き渡しの場所もロンドンではなく、東京にある東工取の指定倉庫ということになります。そして受け渡しの条件も、ロコ・ロンドン価格は金純分、つまり100%の金の価格であるのに対して、東工取の価格は純度99.99%の1kgバー1グラムあたりの金価格です。つまり同じ金価格でもロコ・ロンドンと東工取を比べると、

・ 通貨
・ 重量単位
・ 決済期日
・ 引き渡し場所
・ 金純分

といった違いがあり、これを一目で比べることはほぼ不可能です。

 しかし逆に考えるとこれらの違いの各構成要素を一つずつ引き離し、もっとも中心となる部位、つまりすべての金価格が内包するもっとも元素的な部分「純粋な金としての価値」だけにしてしまえば、すべての金価格を同等に比較することができます。

 東工取、コメックス、ロコ・ロンドン、上海ゴールドエクスチェンジ、この世のすべての「ゴールド」取引はすべてこれによって価格の比較ができることになります。

★池水氏によるブルースレポート
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東工取の新システムに対するこれまでの感想(1)
2009年5月20日

 今週は久しぶりにちょっと脱線してゴールデンウィーク明けの5月7日から始まった東京工業品取引所(東工取)の新システムおよび、システム移行によって変更された点に関して書いてみます。これを書いている時点で、まだ始まって二週間ちょい。もちろんまだまだきちんとした評価をするのは時期尚早でありますが、とりあえずはユーザー会社としての第一印象と思ってもらえればと思います。

1. 改善された点

 新システムであるということ自体から、旧システムよりも改善されていて当然です。ですからそもそも「改善点」として挙げるほうがおかしい。なぜなら全てが良くなっているはずだから、なのですが、残念ながらそうストレートに全てが良くなったとは言えないところがあります。

 とにかく、まずは改善された点。システムの処理能力による改善点は明らかです。スピード。これは圧倒的に速くなりました。これまでとは反応のレベルが違います。まるでストレスがありません。このスピードではコンピュータによるシステム取引が圧倒的有利になっているでしょう。おそらく前システムの時とは比べ物にならないほどのコンピュータによる自動発注のオーダーが入ってきているはず。従来の手入力による注文発注はおそらく瞬間を争う時にはほぼコンピュータには勝てなくなっているでしょう。

 実際のところ、新システムは実際に取引インターフェイスとなる部分はこれまでのような専用端末ではなく、各メンバーが自由にプラットフォームを選べるようになったことから、トレーダー自身がそれぞれプログラムを組んで、自動取引を行うことも可能になりました。

 また新システムによって可能になったのが限月間スプレッド(Standard Combination Order :SCO) および異なった商品間のストラドル(Non-Standard Combination Order:NSCO)です。限月間スプレッドであれば、これまではたとえば期近のロングを売って、同時に期先を買うという個々限月の取引をしなければなりませんでした。

 しかし、新システムでは、スプレッドの取引画面が独立してあり、たとえば金の4月限売り/6月限買いを1円のスプレッドで買い、4円のスプレッドで売りといった形で注文を入れることができ、スプレッドをスプレッドとして直接取引ができるようになっています。これは大きな建玉を先の限月に乗り換えしていく必要が出てくるファンドなどにとっては非常に使い勝手のよいものであると言えます。また特に期近での流動性不足への解決策にもなっています。新システム稼働後は、それ以前はほとんどオーダーの無かった金の期近にもこのスプレッド取引からのオーダーが反映されるようになっています。

 最後にサーキットブレーカー制度により、従来のようにストップ高、ストップ安により、取引不能になることがなくなりました。貴金属のような国際市場の場合は、東工取だけ取引を停めることは何も役にたたないどころか、より乖離を大きくして投資家の損失を増大させる恐れがあります。この点でサーキットブレーカーを導入し、取引を継続させることは意味があることだと思います。

★池水氏によるブルースレポート
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東工取の新システムに対するこれまでの感想(2)
2009年5月27日

2.問題点
 まずはシステムの信頼性を挙げねばなりません。5月12日には、ほぼ半日取引が完全に中止されました。ルーターへの過大なる負荷ということが原因とされていますが、その負荷がどうして起こったのかはまだ解明されていません。これは一日も早い原因の究明と再発の防止を徹底する必要があります。もし同じことがまた起きれば、新システム、ひいては取引所そのものに対する信頼が大きく損なわれることになります。システムそのものに関してはこの点につきると思います。

「システム以外」

 売買高上位10社の発表の意図がいまいちわかりません。会員の手口を発表しないという方針ではなかったかと思いますが、上位10社だけが発表されてその他が発表されないのでは、これを累積していけば、活発に取引をしているところの建玉を類推することができてしまいます。これは不公平でしょう。発表するならこれまで通り全社のものを発表する。発表しないのであれば、すべてを発表しないというルールが必要です。一部の会社のその日の売買手口だけ発表しているのですから、これはどう考えても理屈にあいません。

「取引時間」

 決済時間の関係で日中取引が15時30分までになったことは仕方ないのでしょうが、ロンドンのオープニング時間と重なってもっとも活発になる15時30分〜17時の時間帯に取引をしないということは非常にもったいない。これによって逃している部分は相当大きいと思われます。逆に本来取引をしていなかった午前11時から午後12時30分はやはり昼休みとも重なり、ほとんど取引がないような状況。もっともおいしい時間帯をもっともおいしくない時間帯とスワップしたような気がします。これはなんとかならないものでしょうか。

 夜間取引に関してもこれまでのところはまだあまり売買高は盛り上がっていません。その結果、取引時間延長以前よりも時間を延長した後のほうが全体的な取引高は減少しています。もちろん金相場自体が静かになってしまったということもありますが、時間を延長したにもかかわらず取引高が減少しているというのは普通ではありません。最初にも書いたようにまだ始まって二週間で、判断するには時期尚早ではありますが、少なくともこの現状は喜べるものではありません。

 夜間取引に関して、これまでの我々の判断はわざわざ午後11時まで残ってやるまでの価値が見いだせないというものです。基本的には夜間セッションは午後5時30分もしくは午後6時くらいまで見てそれで見切りをつけてしまいます。同じトレーダーが朝9時から夜11時までカバーするのは不可能で、かといってナイトシフト(夜間担当者)を雇うにはそれなりの収入が期待できる状態でなければなりません。現在のところそれを正当化するには至っていません。

 特にこの金融危機の中、新規雇用は難しいという経済情勢もあります。そのため現在、夜間取引に最後まで参加している会社は非常に限られていると思われます。この情勢は簡単には変えることはできないであろうと思われます。取引所としては新システム導入後半年をめどに24時間化という目標をたてていますが、参加会社の方がそれに対応できないと思われます。それでも強引に持って行って、ビジネスは後からついてくるだろう、というやり方ももちろんありだとは思います。ただビジネスが全然ついてこないというリスクも当然あります。それを占う上でも今後半年くらいの東工取の出来高がどのように伸びていくのかが、その試金石になると思います。

 最終的に新システム、取引時間延長の評価を行うためにはまだ少なくとも数ヶ月の時間が必要だと思います。そのときに、新システムにして東工取が生き返った、という判断を下せるような結果になっていてほしいものです。

★池水氏によるブルースレポート
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貴金属マーケットの裁定理論
2009年6月3日

2.金価格の「元素」部分

 世界のすべての金価格の根幹部分とは何か。それはロコ・ロンドン・スポット価格になります。この価格が米ドルと1オンスのゴールドとの為替であることは以前に書きました。ドル・円や、ユーロ・ドルと同じようにこの価格が基本的に24時間取引されています。世界のすべての金取引の一番根底にあるのがロコ・ロンドン・スポット価格と言ってよいでしょう。それではまず違いとなる部分を一つずつ見ていきましょう。

a.通貨と重量単位

 まず通貨。基本がドル建てだとすると円建てにするためにはドル・円の為替がそこに仲介してきます。そしてオンスをグラムに直す必要があります。

たとえば、現在のマーケットが

ロコ・ロンドン・スポット = $940
ドル円為替 = 95円
であるとすればグラムあたりの円建て価格は

$940 ×¥95 / 31.1035g = 2871円/g

ということになります。これは単純に$1=95円という為替と1toz=31.1035gという単位を使ってドル建てオンスあたりの価格を円建てグラムあたりの価格に引き直したにすぎません。簡単ですね。

b.引き渡し場所(ロケーションプレミアムもしくはディスカウント)

 次に実際の金の引き渡し場所によって価格が違ってきます。まずロコ・ロンドン・スポットはロンドンにてアカウントの付け替えをするという条件の価格でした。上記の円建てグラムあたりの価格もロコ・ロンドンの価格を為替と単位を変えただけで、あくまでロンドンでのアカウント付け替え=ロコ・ロンドンの条件の価格のままです。しかし、たとえば東工取の価格とロコ・ロンドンの価格を比べるときには、その受け渡し場所の違いをまず意識しなければなりません。東工取のデリバリー条件は「東京渡し」つまりロコ・東京ということになります。では、ロコ・ロンドンとロコ・東京の違いはどうやって計算するのでしょうか。

 基本的にはすべてロコ・ロンドンを基本に考えるといった通り、ロコ・ロンドンと比較して、どれほど高くなるか(プレミアム)もしくは安くなるか(ディスカウント)という形で表現します。たとえば基本的にゴールドをロンドンから東京に空輸すると考えるとその空輸にかかるコスト(CIFチャージというやつですね)分だけ、ロコ・ロンドンがロコ・東京よりも高くなっている、つまりプレミアムになっていると考えることができます。一般的に言ってロンドンから東京にゴールドを持ってくるコストはだいたい1オンスあたり1ドルを超えない程度と思っているといいと思います。とするとロコ・東京のゴールド価格はロコ・ロンドンプラス1ドルと考えることができます。前述の例でいうと

ロコ・ロンドン = $940
ロコ・東京 = $940 + $1 = $941ドル

ということになります。さらにこれを円建てグラムあたりに直すとすれば

ロコ・東京・円建てグラムあたり=$940 + $1×¥95 / 31.1035 =2874.1円/g

ということになります。前述と比べるとオンスあたり$1、グラムあたり3.1円ロコ・東京の方が、ロコ・ロンドンよりも空輸コスト分だけプレミアムであるということができます。ただしこれはあくまでロンドンのアカウントから現物を空輸した場合です。

 実際は東京での現物の需給状態により、このロコ・ロンドン・ゴールドに対するロコ・東京・ゴールドのロケーション・プレミアム(ディスカウント)は動くことになります。たとえばこのところの数年間は金価格の高騰のため、日本では投資家の売り戻しが多く、ほぼ絶えず金現物が余剰の状態にあります。そうなると海外から金を輸入する必要はなくなり、逆にロンドンに輸出するということもしばしばです。国内で売れず結局ロンドンに持って行ってアカウントに入れる以外にゴールドの処分ができないとなると、今度はロンドンに金を持って行くコストを考えなければなりません。そのコストが輸入のコストと同じと考えると今度は逆にロコ・東京・ゴールドはロコ・ロンドンから1ドル安くなる、つまりディスカウントということになります。

 という具合にロケーション・プレミアムおよびディスカウントはその時々のゴールド現物の需給によって決まります。東京で金が飛ぶように売れてロンドンおよびその他の地域から輸入が必要になるときはロコ・ロンドンに対してプレミアムに。そして東京では売り戻しが多く、買いがない状況の時にはディスカウントになります。ここ数年は先にも書いたように東京の現物はディスカウント状態が続いています。

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貴金属マーケットの裁定理論(3)
2009年6月10日

C.決済期日 Value date

 これはたとえばスポット・ロコ・ロンドンの価格と、東京工業品取引所(東工取)やニューヨーク商品取引所(COMEX)などの先物取引の価格を比べる場合に必ず勘案しなければならない重要なポイントです。裁定取引のもっとも重要な項目と言ってもよいでしょう。

●スポット取引(spot)

 まずスポット(日本語では「直物」と訳されるようですが、実際のマーケットでは直物と言う言葉は聞いたことがありません。「スポット」というのが一般的です)とは、取引した二営業日後の決済を指します。(T+2、Trade date +2とも言われます)OTC(相対)で取引される為替やロコ・ロンドン・ゴールドは特別に指示のない限り、スポットの価格です。つまりその価格で取引をすると二営業日後に決済がなされるというのが暗黙の了解になっており、このスポット価格において価格のレベルが決定されています。

●先物取引(Futures とForward)

 広義の先物取引の定義はただ一つ、スポットよりも先の決済期日条件の取引であるということです。この先物取引は二種類に分けることができます。英語でいうところのFutures とForwardです。日本語ではFuturesを狭義の「先物取引」と訳し、Forward を「先渡取引」と呼んでいるようです。

 しかしながら「先渡取引」という言葉は、スポットを意味する「直物」と同じく実際にはほとんど使われることがありません。教科書上の言葉と思ってよいでしょう。実際取引している人々の間ではForwardもしくはSwapと呼ばれることが普通です。ではFuturesとForwardの違いどこにあるのでしょうか。

・Futures

 Futuresとは取引所においてなされる定型化された先物取引です。取引所取引と言ってしまってもかまわないでしょう。不特定多数の取引者が定型化された取引を集中して行いprice finding、つまり適正な価格レベルを見つける、というのがFuturesです。具体的にGoldの取引では東工取やCOMEXでおこなわれる先物取引がFuturesに当たります。Futuresでは、そのほとんどの取引が反対売買によって清算される場合が多く、実際の取引対象物が(たとえば「金」や「原油」など)受け渡しされることが少ないのが特徴です。

 Futuresを取引する人々は価格のヘッジ、もしくは投機が目的であり、実際の物の調達・販売という目的に使う人は多くありません。しかしながら東工取においてはCOMEXよりはるかに多くの現物の受け渡しが発生しており、COMEXよりも東工取のほうが、現物マーケットを意識したつくりになっていいます。このように取引所によって若干の特徴の違いがあります。

・Forward

 Forward 取引は、Futuresが取引所の定型化された取引であったのに対して、OTC(相対取引)の一対一の取引です。つまりスポットと同じですが、決済期日がスポット以降のものを「Forward取引」といいます。たとえばスポットよりも一日だけ決済が長い三営業日後決済のものも、一年後の決済のものも、スポットではない相対の取引はすべてForward取引と呼ばれます。

 Forward取引は一対一の取引であるので、お互いが合意できれば、どのようにも取引することができます。たとえば東工取の2010年4月限の決済期日は2010年4月30日に決まっていますが、OTCのForward取引であればたとえば4月10日でも、ほかの何日であっても自由に設定することができます。基本的には期日がくればちゃんと最初の契約通り決済されて、取引所取引であるFuturesのように、そのコントラクトを反対売買(ロングであれば売り戻し、ショートであれば買い戻す)によって清算するということはしません。OTCであるので、当然のことながら取引相手に対する与信が発生します。

 Futuresの場合の取引所もしくはクリアリングハウスに対する与信は発生しますが、そもそも取引相手が特定されるわけではないので、取引相手に対するリスクというのは発生しません。昨今では金融危機でCounterparty Risk(取引相手先に対する与信リスク)がクローズアップされたために、COMEXの取引所取引が増大したということが起こっています。

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貴金属マーケットの裁定理論(4)
2009年6月17日

d.Futures広義の先物の考え方

 FuturesであってもForwardであっても、これまで書いたように取引の仕組みが違うというだけで、その価格の計算の仕組みは同じです。先物の考え方はすべての金融商品にも通じるものなので、ここだけはしっかりと理解しておきましょう。

●先物の計算

 先物の話をするときに、「なぜ一年も先の金の価格が分かるのか?」と時々聞かれることがあります。もちろん人間の能力では今から一年後の金の価格を正確に言い当てることは不可能です。

 では現在取引されている先物の価格とはいったいなんなのでしょうか。一年たったらその時の金価格が一年前に取引されていた金の一年先物価格と同じになることはまずありえません(もちろん偶然、そういうことが起きる事もありえないとはいえませんが)。

 先物の価格は将来の価格を占うものではありません。バカらしいと思う方が大半だと思いますが、未だにこういう質問を受けることがあるのも確かなのです。やはり金融や商品のマーケットに詳しくない人にとっては、「どうして一年先の値段が分かるの?」 ということになってしまうことになってしまうのです。

 では先物の価格はどうやって成り立っているのでしょうか。

 基本的にすべての元になるもの、先日は「元素」と書きましたが、先物価格の根幹にあるものは「スポット価格」と「金利」です。つまりこのスポット価格と金利を基にして、そこから先物の理論値を計算しています。先物の理論値とは、その時点でのスポットの価格と全く同価値になる特定の将来の価格であるといえます。

 言葉で書いていると簡単なことをわざとややこしく書いているという気になりますので、実際の計算過程をみながら考えましょう。まず先物の価格を計算する一番の基本は、スポットで現物を買って、それを先物の決済日まで保持するコストを考えることです。

前提条件:(簡略化のため、それぞれのビッド・オファーのスプレッドは考えないこととします)

スポットゴールド価格:$950.00
ドル金利(一年)    :1.60% p.a.
ゴールド金利(一年):0.60% p.a.

 スポットゴールドを950ドルで買い、それを一年保持するときにかかるコストと利益を考えます。

1. ドル調達コスト:ゴールドを買うための代金を一年間借りるためにかかる金利 = 1.6%p.a.

2. ゴールド運用益:買ったゴールドを一年間貸し出すことによって得られる利益 = 0.6%p.a.

 まずゴールドをドルで買うためにドルを調達しなければなりません。当然のことながら、お金を借りるということは金利がかかります。それがドル調達コスト、つまりドルの一年ものの調達金利になります。そして買ったゴールドはお金と同じように貸すことによって運用し金利を得ることができます。これがゴールドの金利(貴金属の世界ではメタルの金利のことを「リースレート」と呼びます。)です。

次回に続く

★池水氏によるブルースレポート
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貴金属マーケットの裁定理論(5)
2009年6月24日

●先物価格の計算 その2

 先週からの続きです。

前提条件:(簡略化のためそれぞれのビッド・オファーのスプレッドは考えないこととします。)

スポットゴールド価格:$950.00
ドル金利(一年)    :1.60% p.a.
ゴールド金利(一年):0.60% p.a.

 以上の前提条件で、一年間ゴールドを保持するとドルの調達金利のコストが1.6%、ゴールドの運用益が0.6%なのでこれを合算すると差し引き1%のコストがかかるということになります。

ドル調達コスト1.6% − ゴールド運用益0.6% = 1.0%

 つまり、スポットが950ドルならば一年先物の価格は1%高くなるはずです。

$950 + ($950 × 1%) = $959.50 : 一年先物の理論値

 もしそれにもかかわらず、先物が理論値よりも高い980ドルであったとしましょう。もしそうなら、950ドルでスポットを買って、980ドルで先物を売るというオペレーションをすれば、1%のコストをかけて、スポットで買ったゴールドを一年先の先物決済期日到来日にもっていけば、9.50ドルのコストを払ってもまだ20.5ドル(980−959.50=20.50)がまったくリスクフリーに儲かることになります。

 経済原則により、当然ながらこの儲けがなくなるまで、このオペレーションは続けられます。リスクがなく儲かるのであれば、誰でもそうしますよね。そうすると結局、先物価格はこのコストのところで収束することになり、959.50ドルに限りなく近づくはずです。このオペレーションを裁定取引(アービトラージ:Arbitrage)といいます。

 逆もまた真なりです。今度はスポットと先物が同じ価格950ドルであったとしましょう。この場合、上の例とは全く逆の裁定取引が入ります。

 先物を950ドルで買ってスポットを950ドルで売ります。これは先の例とは反対に、まず売却するゴールドを一年間調達する必要があります。またスポットを売却するので、今度は一年間ドルを運用する必要があります(前提のために金利は調達も運用も同じと考えますが、実際のマーケットでは当然のことながらスプレッドがあります)。

 まずゴールドの調達で0.6%コストがかかり、ドルの運用で1.6%の運用益がもらえます。一年間ゴールドをショートすると1%の利益が上がることになります。とすると、もし950ドルでスポットを売り、本来ならば1%(950×1%=9.50ドル)の利益を織り込んだ価格959.50ドルで先物を買えば損益がなくなるところが、同じ価格の950ドルで先物を買えるわけですから、この場合は9.5ドルそのまま利益となってしまいます。

 そうするとスポットと先物の値差が1%開くまで、この裁定取引をすれば、これまたリスクなく利益を取ることができます。もちろん、リスクフリーの利益はすべての市場参加者が取りに行くので、この裁定取引の結果、先物価格は理論値に近いところで落ち着くことになります。

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E. フォワード(Forward)取引
2009年7月1日

 さて、先物価格の考え方は理解できたでしょうか。

 目ざとい人はもはや分かると思いますが、一言で言ってしまうと先物の価格はその二つの商品の金利差によって決まるということができます。

 ドル建てのゴールドであれば、ドル金利とゴールド金利(リースレート)の差、円建てのゴールドであれば円金利とゴールド金利の差ということですね。これはゴールドのみならず、外国為替の世界でも全く同じ仕組みで先物レートが決まっています。そして、この金利差のことを貴金属の世界では、フォワードレート(Forward Rate)もしくはスワップレート(Swap Rate)と呼んでおり、OTCのフォワードレート取引をするときはこのレートで取引をしています。

 なぜSwap Rateと呼ばれるかというと、SpotとForwardを交換する(Swapする)レートであるからです。では実際のマーケットでフォワード取引がどのように行われているのか見てみましょう。

 左の表は2009年6月12日のGold Forward Rates(ゴールドフォーワードレート)です。これは、とあるブローカーから毎朝送られてくるレートですが、このような形で表されています。たとえば3ヶ月のForward rateは0.58%ビッド、0.62%オファーとなっています。

 つまり、スポット売り、3ヶ月先物買いの場合はオファーの0.62%を使って計算し、スポット買い、先物売りの場合はビッドの0.58%を計算します。先物を買う場合はオファー、先物を売る場合はビッドと考えればわかりやすいかもしれません。実際に3ヶ月ものを計算して見ましょう。なおGold Forward RatesはGOFOと略されることがあります。

Trade Date:2009年6月12日
Spot Price:950ドル
Spot Value date(決済日):2009年6月16日
3 month Forward Rate : 0.58/0.68%
3 month value date :2009年9月16日 (92 days)

3 month Forward Price = 950 ×0.68% ×92/360 + 950 = 951.65

ということになります。仮に10,000 toz (約311kg)を取引したとすれば、この取引は以下のように確認されます。

I sell 10,000 toz gold Loco London at $950.00 val 12-06-2009
I buy 10,000 toz gold Loco London at $951.65 val 16-09-2009

 つまりあなたは、OTCで誰かを相手にスポットのゴールドを950ドルで売ると同時に3ヶ月先物のゴールドを951.65ドルで買うという契約を結んだということです。

 このスポット売り・先物買いの形のフォワード取引を別名Lendingと呼びます。逆にスポット買い・先物売りの取引をBorrowingといいます。これはゴールドの動きを考えてもらえばよいのですが、スポットを買って、先物を売るということは、まず手元にゴールドが来ることになり、先物売りの期日までそれが手元にあることを意味します。つまりその期間ゴールドを借りる(Borrow)という行為にほかなりません。ということは、スポットを買うコスト=買うための資金を借りる金利と、フォワードレートの差がゴールドの金利(リースレート)にあたるということもわかってもらえるでしょうか。

「ゴールドリースレート= 通貨の金利 − ゴールドフォーワードレート」

具体的にはGold Lease = ※Libor − GOFOと言われます。

※London Inter-Bank Offered Rateの略で、ロンドン市場において銀行間で取引される資金取引のレート(金利)のこと

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F. ゴールドと為替のフォーワード取引との違い
2009年7月8日

 さて、ゴールドの現先のレート、ゴールドフォーワードレート(GOFO)は百分率、パーセンテージで示されることは前回述べたとおりです。為替のマーケットも基本的に先物はその通貨間の金利差で決まる原理はまったく同じですが、そのマーケットでの取引方法が若干異なります。円建てで先物を計算する際には、その知識も必要になるので、ここで少し説明しておきましょう。

 通貨の場合はパーセンテージではなく、実数でスワップポイントとして取引されています。たとえば2009年6月12日のある一点でのドル・円スワップポイントは次のようなレートでした。

Date: 2009-6-12
Spot Value: 2009-06-16


 この時点でのスポットのドル円レートは1ドル=98.00円でした。

 たとえば1年物の先物ドル円レートを求めるためにはこの実数をそのままスポットレートに足すだけです。もしスポット買い・先物売りをするのであれば、swap pointは−87.25(−0.8725円)ですので、1年物のレートは

98.00+(−0.8725)=97.1275円

となります。

 考え方は全く同じです。ですからこのスワップポイントは米ドルと日本円の金利の差を反映しています。ゴールドのGOFOがたとえば1年物で0.96%/1.06%という表示ではなく、$9.14/$10.09といった実数で表示されているのと同じことです。

 なぜ同じフォーワードレートであるのに、貴金属と通貨では表現方法が違うのでしょうか。残念ながら私にはその正しい理由はわかりませんが、外国為替のほうが、市場規模も大きく、取引の頻度も額も貴金属の比べものにならないほど大きいものですから、いちいちパーセンテージで計算などと面倒くさいことをするよりも、最初からスパッと実数で仕切るほうが時間も労力も節約できるといった実務的なことが案外本当の理由なのかもしれませんね。

★池水氏によるブルースレポート
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G. 円建てゴールドフォワード
2009年7月15日

 これまでの説明は、ドル建てゴールドのフォワードレートの説明をしてきました。しかしもう皆さんお気づきだと思いますが、東京工業品取引所(東工取)は円建ての先物取引ですので理論的価格を考える時には円建てフォワードレートが必要です。ここからは円建てのフォワードレートを考えてみましょう。

簡単に説明すると

1. ドル建てゴールドのフォワード価格を計算する。
2. ドル円のフォワード価格を計算する
3. 1と2の価格から円建てゴールドフォーワード価格を計算する。

ということになります。簡単ですね。前回の例で考えてみましょう。

Date: 2009-6-12
Spot Value: 2009-06-16


この時の6カ月(183日)の円建て先物価格(オファー)を計算します。

1.ドル建てゴールドの6カ月先物価格

  952.40 ×  0.77%  × 183/360  +  952.40  =  956.13

2. ドル・円の6カ月先物レート

  98.01  +  (-3.494)  =  94.516

3. 円建てゴールドの6カ月先物価格

  956.13  ×  94.516/31.1035  =  2905.45

ということになります。どうでしょう。簡単ですね。これを当てはめていけば東工取の価格が、そのときのロコ・ロンドン・スポット価格とドル・円の為替に対して、果たして適正な価格なのか、もしくは高すぎるのか安すぎるのか、判断することができます。もちろん、これは決まった計算ですので、エクセルに式を入力しておき、変動する数字をその都度変えていけばよいので、いちいち手で計算する必要はありません。

ちょっと昔話をしましょう。

 今から20年ほど前、まだ私が社会人2年目くらいの話です。当時はまだパソコンなんて便利な機械はありませんでした。すべては計算機をかしゃかしゃたたいていました。当時の上司が机に据え置きの大型の計算機のCとACボタンを意味もなくいつもパコパコ叩いていたのが、未だに記憶に残っています(笑)。

 大型のコンピューターがオフコンと呼ばれて、それが初めて導入された時、初めて表計算ソフト(当時はMultiplanというソフトでした。まだLotus 1-2-3が出る前の話で、エクセルなんてまだ影も形もなかった時代です)に出会いました。これには非常に大きな衝撃を受けました。

 これまでいちいち計算機をたたいて時間をかけて計算したり、時間がないときは簡単な暗算とまさに勘に頼って取引をしていました。ところがこの魔法のようなソフトは計算式さえ入れておけば変わる数字(ドル建てスポットと為替)を入力するだけで、理論値を即座に計算してくれます。

 おおげさではなくこれで時代が変わると直感しました。当時のマーケットはまだまだ原始的な状況でした。トレーディングをしている人々もおそらく大部分の人は私がここに書いているような基本的な理論を理解しないで勘と経験だけで取引していた頃です。東工取の鞘がどうしてこの鞘になっているか、というのを理解している人がほとんどおらず、そのために、理論値から乖離していることがしばしばでした。誰も理論値を理解していなかったから当然ですね。

 東京市場においてディーリングに最初にコンピュータを使ったのは私でした。その先行者メリットはその後数年間、非常においしい思いをさせていただいたとだけここでは言っておきましょう(笑)。

★池水氏によるブルースレポート
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ライブデータの取得
2009年7月22日

 さて先週までの説明で先物価格の考えた方がだいたい理解できたものと思います。もし皆さんが実際に東工取の先物を取引するとするならば、ぜひご自分でエクセルを使って理論値計算のスプレッドシート(Spreadsheet)を作ってみることをお薦めします。

 その際に問題になるのがマーケットのライブデータ、つまりその瞬間のデータをどこで得るかですが、最近は便利なもので、インターネットへのアクセスがあればすべてのマーケットデータが取得可能です。皆さんの力で探してください、といいたいところですが、せっかくですから、お金がかからずにそういったライブデータが取れるサイトをいくつか紹介しておきましょう。

 個人的には情報って基本的にお金がかかるものだと思うのですが、もはや時代はよっぽど価値が無ければ情報ではお金が取れなくなってきているのかもしれませんね。

「スポット・ロコ・ロンドン・ドル建て金価格」

●KITCO:http://www.kitco.com/market/
 貴金属の総合サイト。価格は updateボタンを押すと更新。ニュース、リースレートと総合的な情報が満載のサイトです。

●The Bulliondesk.com:http://www.thebulliondesk.com/
 ここもニュースの豊富な貴金属の総合サイトですが、subsucribeしないとほとんどニュースを読むことができません。レートも会員になればpush型で自動的にupdateされますが、そうでなければ約3分に一度の更新のようです。リアルタイムのレートは自分で画面をrefreshする必要があります。

●上田ハーローGold:http://www.uedaharlowfx.jp/gold/
 日本で現在ゴールドのCFD取引を開始している会社です。Live streamingで常にmarketのlive価格を見ることができます。一度ずっと見ていましたが、その反応は非常にすばやくまさにマーケットそのものです。GoldのSpot priceを見るのならこのページあればよいでしょう。

 以下のリンクのページの「リアルタイムレート」をクリックするとGoldとSilverのレートがいろんな通貨建てで表示されています。円建て金価格もありますが、オンスあたりの価格です。SaxoBankというCFD専門の銀行のレートです。

●ドットコモディティ:http://www.commodity.co.jp/cfd/
 ここも日本でCFDを始めた会社です。GFTという会社からのレート情報がリアルタイムにアップデートされます。ドル・円のレートもあり、便利です。

「スポット・ドル円」

 上記のドットコモディティに加えて、海外の以下のサイトでリアルタイムに更新されています。

●IG Market:http://www.igmarkets.co.uk/
 これもCFDの業者のサイトです。Push型で何もしなくてもレートがアップデートされます。それもすごく狭いスプレッドで。

「ゴールド・フォーワード・レート」

●LBMA:http://www.lbma.org.uk/stats/currstat
 LBMA:London Bullion Market Associationのウェブサイトに毎日のロンドンでのFixingのレートが掲載されています。残念ながら時間によっては最悪一日遅れのレートになりますが、スポットと違い常に刻一刻と動くものではないので、ある程度余裕を持ってこのレートを使えば問題ないと思います。これはlending rateであるので、forward rateのBidということになります。

「ドル・円スワップレート」

 ドル・円の先物を計算するための直先のスワップレートは残念ながらインターネットでは見つけることができませんでした。どこかにあってもおかしくないと思うのですが...。これは頑張って探してみてください。

★池水氏によるブルースレポート
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