「上海レポート:中国の商品先物市場と金先物」
2008年4月21日

 先週までは数回にわたって現在のマーケットで起こっていることをまとめてみました。ただマーケットは常に動いています。文字にした瞬間からもはや過去の出来事になって行きます。日々の動きに関してはやはりその時々の 新鮮なレポート を読んでもらうほうがいいですね。

 4月半ば、金相場の頭が重く感じられるようになってきました。3月半ばに1032ドルを記録した後、870ドル台まで下げて、4月17日に一度950ドルまで戻してから、この原稿を書いている4月19日現在はふたたび 910ドル台まで下げています。相変わらず大きな値動きが続いていますが、原油が116ドルという歴史的高値を更新しているのにもかかわらず、金は逆に頭が重い展開となっています。強気一辺倒の雰囲気が少し変わってきたようです。

 さて、今週から数回はまた少し脱線して久しぶりに行った上海のレポートをしましょう。(最後に上海料理を論じたいと思ってます!)3月26日から28日まで、久しぶりに上海を訪れました。上海に行くのは2005年9月以来でした。もっと頻繁に来ていたような気がしていたのですが、実際は2年半ぶり。思ったより時間がたってしまいました。

羽田から上海へ

今回は初めて羽田から紅橋(ホンチャオ)に飛びました。どちらも成田、浦東(プートン)ができるまでは、国際空港として活躍していました。みんな都心に近いという点で、羽田、紅橋、そしてソウルの金浦は似ていますね。飛行時間は同じでも国内での移動が段違いに楽です。飛行時間行きは3時間半、帰りは2時間40分でした。上海はとっても近い街です。

 今回は残念ながら二泊三日と駆け足の出張で、(まあいつもそうなのですが)浦東地域にしかいる時間がなく、浦西(プーシー)をぶらつく時間はありませんでした。金融機関や外資系企業は黄浦江を境に東側に開発された浦東地域に集中しています。西側の浦西地域は昔からの上海の町で、黄浦江沿いのバンド(ワイタン・外灘)や豫園などの観光名所、南京路などの繁華街はみんなこちら側です。浦東は現在でもいくつものビルが常に建設中で、私の知っている限りいつでもどこかで工事中です。浦東はビジネス街であり、おもしろいのは圧倒的に浦西なのですが、今回は残念ながら浦西に行く隙はありませんでした(涙)。

 今回の出張はずばり上海期貨交易所(Shanghai Futures Exchange:SHFE)を訪問し、今年1月に始まった金先物取引の実際を調べるということでした。その前にまず中国の商品先物市場に関して少し調べてみましょう。



「中国の商品先物市場」
2008年4月28日

歴史と現状

 中国では中華人民共和国の成立以前、商品先物市場が各地に乱立していました。しかし人民共和国となり、社会主義計画経済が導入されると先物市場はその必要性もなくなり、事実上消滅していました。しかし、ケ小平が実権を握るにいたり、改革開放の波により、企業が経営自主権を持ち始め、市場リスクを意識する必要が出てきたのです。

 1990年初頭には相対の小麦先渡し契約が企業間で結ばれ始め、1991年にはシンセンにおいてアルミの先物取引所が開始されました。その後1993年年末には商品先物取引所は33を数えるようになり、94年には50以上にまで増加。また先物を仲介する業者は300を超えました。

 しかし、取引所の乱立により上場商品が重複するなど問題も多く、鋼材が15取引所、銅やアルミが9取引所で取引されていました。この混乱を正し、市場の健全な発展を図るために、中国国務院は先物市場の監督強化に乗り出しました。その結果1995年には33取引所が一挙に15取引所にまで集約されました。

 そして1998年8月、国務院にて15まで集約されていた中国の先物取引所をさらに3取引所に集約させるとの決断が下されました。上海、大連、鄭州の三取引所です。各取引所の上場商品は以下の通りです。(参考まで英語の各所web siteです。英語版は簡略版ですので、中国語を勉強されている方はぜひ中国語ページをお試しあれ。)

「上海期貨交易所」工業品: 銅、アルミ、ゴム、灯油、亜鉛、金
http://www.shfe.com.cn/Ehome/index.jsp

「大連商品交易所」農産品:コーン、大豆、大豆かす、大豆油、パームオイル、ポリエチレン
http://www.dce.com.cn/portal/en/index.jsp

「鄭州商品交易所」農産品:小麦、綿花、粗糖、菜種油、PTA(高純度テレフタル酸)
http://english.czce.com.cn/

 米FIA(Futures Industry Association)によると、中国の商品先物市場は世界の先物市場のなかでの取引高ランキングでは、大連が17位、鄭州が24位、上海が27位となっています。ちなみに東工取は30位、東穀取は39位、中部は44位、関西は53位。1位はCME、2位は世界最大のボリュームを誇るKospi 200 optionを上場するKorea Exchangeになっています。取引高で考えると明らかに中国の先物市場のほうが日本の取引所より大きいといえます。

 また上場商品の規模でも農産品では大連が圧倒的に強く、世界の1位(大豆かす)、2位(とうもろこし)、4位(大豆)は大連のコントラクトです。また5位は鄭州の粗糖、6位は上海のゴム、7位は鄭州の小麦と、なんと3位のCMEのとうもろこしを除くとすべて中国の先物商品になります。日本は14位に東穀取のNon−GMO 大豆、そして20位に東工取のゴムがランクされるだけです。農産品では中国の存在感はもはや日本の比ではないといえます。



百聞は一見にしかず。その上海期貨交易所を訪問してきました。
2008年5月21日

 現在、外国の企業は取引はできないので我々の場合も表敬訪問という形でした。取引所には立派なtrading floorがありましたが、残念ながら写真はだめ。先物取引博物館が併設されており、先物取引に歴史が説明されていてLME/CBOT/Nymexなんかの例が説明されてありましたが、世界最初の先物取引が大阪の堂島での米取引であったというような、日本に関する言及はまったくありませんでした。さすが中国(笑)。

 今回の訪問で一番気になったのが税金に関する話。そもそも上海の金先物価格には税金が含まれているのか、いないのか?含まれていないとすればそれはデリバリーの際に新たに課税されるのか?たとえば東工取は取引価格は税抜きであり、実際のデリバリーとなった時に初めて消費税が課されます。この質問をしたところ、取引所側もどうもclearではない模様。

 実際に現物のデリバリーがこれまでなされてないことから前例もなく、増値税(付加価値税、日本でいうところの消費税にあたります)がすでに価格に織り込まれているのか、それとも税抜きの価格なのか、どうもわからないようなのです。中国の増値税は一般に17.5%もありますから、これ次第で果たしてこのコントラクトが高いのか安いのか大きく変わってきます。それがはっきりしない中で取引が進められていること自体なんだかすごいことです。しかしながらこれまでの経緯と世界の例を考えるとやはり、先物取引所での価格には税金は含まれない、というのが常識だろうと思います。

 現在の参加者は100%中国国内の個人投資家と商業銀行以外の国内法人であると考えられます。そのため先日触れたように、海外のマーケットと完全に連動しているわけではありません。まさに金であって金であらず。まずは中国国内の銀行の参入、そして海外のトレーダーの参入というステップを踏まないと国際的に認められるマーケットとなるのは難しいでしょう。そのためには中国人民元の自由化が絶対必要条件になります。そう考えるとまだまだ道は遠いのかもしれません。

 現在、SHFEの金先物は取組高、取引高ともに停滞しているといえます。自由化が遅れて、海外からの参入がない時間が長引けばこの停滞がどんどんひどくなっていく可能性があります。鉄は熱いうちに打て。金先物も熱いうちに打って欲しいものなのですが。

 ご参考まで、SHFEの金先物取引の詳細は以下のサイトにあります。  SHFE Gold Contract Details

 上海レポートはこれでおしまいです。上海料理に関しては、後日改めて!(すみません)来週はロンドン・プラチナ・ウイークに関してレポートしましょう。