PGM(白金系メタル)
2008年10月22日

 さて、寄り道ばかりでなかなか本編が進みません。しかしこの連載を始めてもはや一年以上が過ぎて、50回も超えたようです。光陰矢のごとしとはまさにこのこと。もはや1年前の記述が、当たり前ですが、しっかりと一年古い話になってしまっています。

 特にこの1年の変化は、おそらくその前の20年間の変化よりももっと大きなものとなっています。こと貴金属の相場はもはや賞味期限が一日も持たないほどの激動の時代になってしまいました。こんな中でこの連載を続けている私はラッキーそれともアンラッキーなのでしょうか。

 今週からPGM (Platinum Group Metals)に入りたいと思います。PGMとは具体的には、プラチナ(Platinum: Pt )、パラジウム(Palladium:Pd)、ロジウム(Rhodium:Rh)、ルテニウム(Ruthenium: Ru)、イリジウム(Iridium:Ir)、オスミウム(Osmium:Os)の六つのメタルを指します。化学的な分類では、元素周期表において第5−6周期、第8−10族に位置する元素で、物理的、化学的性質がよく似ているために同じ族として取り扱われているようです。

 この中でいつでも取引ができる市場性のあるメタルはプラチナとパラジウムだけです。この二つに関しては、金や銀と同じように、ほぼ24時間を通して、相対でのマーケット(ロコ・チューリッヒ・スポット取引)が成り立っており、ロンドンでは一日二回のフィキシング(値決め)が行われており、先物もナイメックス(NYMEX)と東京工業品取引所において上場されています。

 それ以外はロジウム、ルテニウムが相対での取引となりますが、専門的に取引をしている業者があり、最近ではブローカーによるロジウムのフィキシングも始められており、価格の透明性が増し、徐々に市場性が出てきているといえます。イリジウム、オスミウムに関してはほとんど市場性がなく、生産者と需要家の直接の取引となっているものと思われます。そのためこの二つに関しては貴金属としてよりも流通量、使用量ともに少ないことからレアメタル(希少金属)として取り扱われることが多いようです。

 見方によってはPGM全体がレアメタルと定義もされていますが、プラチナ・パラジウムに関しては商品先物取引所に上場もされ、日々売買されて市場価格の透明性が確保されており、狭義のレアメタルと定義するならば、その他四つは貴金属の中でも「レアメタル」として取り扱われるべきものであると言えます。特にオスミウム、イリジウムに関しては未だにレアメタルの専門誌掲載の価格の月間平均といった方式で値決めが成されており、価格の透明性という意味ではほかのPGMから大きく遅れているといえます。逆にその程度の流通量のメタルであると考えたほうがいいのかもしれません。

 我々のレベルでも普段から取引しているのはプラチナとパラジウムだけです。この二つのメタルは毎日相当量の取引があります。しかしロジウムになるとあくまで顧客からの買いたし、売りたしのリクエストがあるときにはじめて、その相手を探すといったところです。ルテニウムになってしまうとアジアの時間帯にはほとんどスポットでは取引されていないと言ってもいいでしょう。どうしてもロンドン時間帯を待って、これらのメタルを得意とする業者が出てきてからということになります。ちなみにスタンダードバンクはそんな業者の一社になります。

 本稿では主に市場性のあるプラチナとパラジウムを取り上げますが、ロジウムとルテニウムも少し触れたいと思います。特にロジウムに関してはこのところの価格の動きが想像を絶する動きです。これに関してはある程度触れる価値があると考えています。




PGM(白金系メタル)その2
2008年10月29日


 上の表は最近の市場でのPGMの価格です。同じ白金族でもずいぶんと価格にばらつきがあるのがよくわかると思います。特に2008年はプラチナとロジウムにとっては前代未聞と言っていいほどの激動の相場となりました。

 金や銀とは比べものにならないくらいの少ない生産量、偏った生産国、その代表国である南アの不安定さ、そしてその需要の大部分が工業用需要であるという需要側の偏りなど、価格が大きく動きやすい条件は非常に多いと言えます。プラチナの値動きに関しては後ほど詳しく触れるとして、今回はロジウムとルテニウムが近年歩んだ道を少し振り返ってみましょう。

「ロジウムの値動き」


 上記のチャートは過去5年間のロジウムの価格の動きです。2008年6月には一瞬でしたが、なんと10,000ドルを超えました。これは歴史上で見てもおそらく単一の金属の価格としては最高のものではないでしょうか。当時の為替で計算すると1グラムあたり3万4400円。10グラム34万円、100グラム買うと340万円です!車が一台買えますね。

 そして2008年10月半ば現在の価格は5470円とおよそ1/6まで下がっています。ここまで極端な動きがあった理由は南アの供給不安にかられたアメリカの大手自動車メーカーの在庫の積み増しと、その後の株価急落と業績悪化による一転した在庫処分の売りだと噂されていますが、真実のところはわかりません。ただそれくらいの理由がなければこれだけの動きは説明しづらいところです。当たらずとも遠からじといった事情があったと考えるのが妥当だと思います。もちろんその根底にあるのはプラチナと同じくその供給の80%を握る南アの状況(電力供給能力および鉱山労働環境など)にあります。

「ルテニウムの値動き」


 ルテニウムは2006年後半から2007年初頭にかけて大きく上昇しました。電子分野からの需要の急増(主にパソコンのハードディスクの大容量化で記録層に使う用途が急増)と生産サイドの不調が重なり一時800ドル超えの急騰。しかしながらその後、リサイクルの急増、そして在庫の調整により急落。2008年後半は200ドル近辺での動きです。




PGM(白金系メタル)「プラチナの需給」
2008年11月4日

 今週からプラチナに入ります。まずは需給の数字から見ていきましょう。


1.供給

鉱山生産

 プラチナの供給は、ほぼ8割に近い量を南アが産出していることによって非常に偏ったものになっています。上の表を見てもらえれば供給に占める南アの割合は77%、二位がロシアで14%。この二国で9割を占めます。年間の生産量はほぼ200トン。これはゴールドの10分の1以下です。

 供給に占める南アの割合がこれだけ大きいのがこのメタルの最大の特徴であり、アキレス腱でもあります。また詳しくは需要サイドで触れますが、需要の面でも5割以上を自動車排ガス触媒が占めるといった偏りがあります。

 2008年はプラチナもほかの商品と同じく前代未聞の相場の動きとなりましたが、世界的金融状況に加えて、この偏った需給構造がプラチナの大きな動きになった最大の原因だと言えます。これに関しても後ほど触れることにしましょう。

A. プラチナの生産国


 プラチナの生産国のトップ5は上の表の通りです。

(1)南ア

 圧倒的な生産量を誇る南アですが、2007年は大きな問題に直面した年でした。2006年は169トンと史上最高の生産量を記録したのですが、2007年は大方の予想を裏切り、7%減と大きく減少しました。この減少の最大の要因になったのが、鉱山の安全問題です。

 2007年は前年に比べて南アのすべての鉱山産業での死者が11%も増えています。これを受けて、さすがに、南アの鉱業界と政府が一体となって、その鉱山の安全対策の徹底が図られました。死亡事故が起こった鉱山は生産を中止して、徹底的に安全面の調査が行われるようになりました。従来から問題であった、「熟練工」の不足と相まって、南アの鉱山生産がここ数年で初めて大きく減少する結果となったのです。

 プラチナ需給表の鉱山生産の南アの項をみてもらえれば2000年から2006年の間に南アのプラチナ生産は約45%も増加しています。それに対して、金の生産は3分の1も減少しました。2007年は金もプラチナもその生産量が激減した年となりました。その結果南アは史上初めて金の鉱山生産世界一の座を中国に譲ったことは皆さんもご存じでしょう。




世界の10大プラチナ生産者
2008年11月12日


 上記の表は世界の10大プラチナ生産者です。ご覧の通り上位3社は南アの鉱山会社です。中でもアングロ・プラチナム(アンプラッツと略されます。)は一社で77トンも生産する巨人です。しかしながら2006年の88トン弱からおよそ12%もの生産量減少になっています。

 これはやはり鉱山の安全面での問題が大きな原因です。2007年前半に12人の死者が出る事故があり、6月にはアンプラッツの主要なプラチナ鉱山であるルステンバーグ鉱山の操業を停止し、すべてのシャフトの安全面を確認し、従業員に対しても安全に対する意識の再点検を行いました。この期間のルステンバーグのプラチナの生産量は17%減少したと報告されています。

 第三位のロンミンは、アンプラッツ同様にその生産量を減らしています。その他アクエリアス、ノーザムといった鉱山会社も2006年に比べて生産量が減っており、南ア全体としての落ち込みを反映しています。その中で生産量をわずかながらも増やしているのが第二位のインパラ、そして八位のARMです。

「2008年の南ア電力問題」

 2008年前半には南アの電力問題が表面化し、プラチナ相場が大きな影響を受けました。そもそも1月に大雨が降り、洪水のために閉鎖された鉱山がありました。

 そんな中、南アの電力公社であるエスコム(Eskom)が電力の供給に関してフォース・マジュール(不可抗力)を宣言し、鉱山業界に対する電力の供給を停止しました。5日間に渡って電力がまったく供給されず、南アの鉱山の掘削活動は文字通りストップしてしまいました。これは、南アの電力供給拡大に対する投資が過去行われておらず、供給は増えていない上に、近年の南ア経済の力強い成長もあり、電力に対する需要が大きく伸びたことが、電力不足につながりました。

 そして1月の大雨によりエスコムの石炭の在庫が濡れてしまったことも手伝ってこの「停電」状態に陥ったのでした。この5日間の電力供給中止から、現在は90%から95%のレベルでの電力供給となっています。このため2008年のプラチナ生産は大きく減少するという見方が大勢となっています。




A.プラチナの生産国
2008年11月19日


(2) ロシア

 ロシアはパラジウムの生産が世界一ですが、プラチナは南アの158トンに対して約29トンで、大きく離れた世界第二位の生産国です。ノリリスク・ニッケルという会社が、パラジウム、プラチナの大部分を生産しています。ロシアのプラチナ生産29トンのうち23トンがノリリスクによるもので、残りはアーテル・アムールが3.7トンという数字になっています。

(3)北米

 カナダが世界第三位のプラチナ生産国ですが、南ア、ロシアに比べると遥か少ない量で6トンでしかありません。プラチナの生産がいかに偏ったものかよくわかります。カナダのプラチナ生産はオンタリオ湖周辺のニッケル鉱山の副産物として生産されており、昨年は10%の生産減となっています。副産物であるがゆえ、そのメインであるニッケルの生産が減ると必然的にプラチナの生産も減少するということになります。

 カナダではパラジウムも生産されていますが、こちらの方はパラジウムを豊富に含んだ鉱石が存在しており、昨年は生産量が増加しています。

 米国はカナダ、ジンバブエに次ぐ世界五位です。米国におけるプラチナ、パラジウムの鉱山生産はスティルウォーター・マイニング社一社です。モンタナ州にあるスティルウォーターとイーストボールダー鉱区から生産されています。モンタナ州ボールダーと言えば陸上の高地トレーニングで有名です。かの高橋尚子が根拠地としていたのもここですね。

 2007年のプラチナ生産は3.7トンとなっており、2006年にくらべると0.6トンの減少となっています。これはスティルウォーター鉱山とコロンバス製錬所における7日間のストライキの影響と熟練工が多く引退し、まだ未熟な労働者に変わったことが大きな原因だと言われています。

(4)ジンバブエ

 ジンバブエはカナダに次いで世界四位の生産国です。トップ5の生産国の中で唯一、1%とわずかながら、前年から生産を増やしています。ジンバブエではすべての外資系企業の株式の51%という過半数を取得するのを認可するという法律が2007年に議会が承認し、2008年3月には大統領もこの政策を認めました。今後、鉱山がすべて国有化されていくのかもしれません。




B.プラチナの生産コスト
2008年11月26日

 プラチナの生産コストの計算は各社各様の数字を公開しており、これを一つの基準で見るということ自体が非常に困難なことです。GFMSの「Platinum & Palladium Survey 2008」ではそれを大胆に単純化して、プラチナのオンスあたりの生産コストにまとめています。


 それによると世界全体でプラチナの生産コストは、2007年は2006年に比べて12%、1オンスあたりのドルにして67ドル上昇して、2006年の536ドルから603ドルとなりました。このコストの上昇の最大の要因はインフレ率以上の労働賃金の上昇、そして熟練鉱山労働者の不足にあります。また、相場上昇による鉱山開発ブームも、それに必要な物資の不足を招き、それらの価格を上昇させている要因になっています。

 しかしながらプラチナの価格自体は2006年の1142ドルから2007年は1302ドルとほぼ14%の上昇であり、おおざっぱに言って生産コストと実際の相場の関係はほぼ同じになっていることがわかります。相場の大幅な上昇によって生産者の利益は増えるような気がしますが、決してそう簡単でないことがわかると思います。

 さて、国別に生産コストを見ていくと、米国では26%ともっとも生産コストが上がっています。これは唯一にして最大のスティルウォーター社がそのスティルウォーター鉱区とイーストボールダー鉱区の両方での生産が減少したことが響いています。労働者の確保と賃金再交渉などがその原因となってコストが上がっています。それに加えてスティルウォーター社の生産はパラジウムが主、プラチナは従であり、2007年、プラチナ価格が14%上昇したのに対しパラジウムの価格は11%の伸びにとどまったため、相場上昇から得られる利益、キャッシュマージンの上昇は全体で3%の小幅にとどまったことも影響しています。

 南アはランドベースでは17%のコストの上昇ですが、ランド安のためドルベースでは12%の生産コスト増となっています。コスト上昇の主な要因はやはり労働者の問題です。インパラ社では労働者の管理を担当する監督クラスのマネージャーの不足がコストの上昇の重要な要因だと発表しています。また生産の南アの項でも触れましたが、鉱山における死亡事故の多発により、鉱山の安全を向上を目指した法律が採択され、その結果生産がストップするといったこともまたコスト上昇に拍車をかける結果になりました。キャッシュマージンはランドベースでは20%の伸びになっています。

 ジンバブエでは経済の混乱が加速しており、鉱山省によると2007年には全体のなんと50%もの熟練鉱山労働者がそれを嫌って近隣諸国へ流出しているとのことです。ここでもやはり労働者の問題の問題が最大のコスト上昇の要因になっています。これに加えて鉱山生産のための物資の値上がり、そして急落しているジンバブエ・ドルの動きも無視できない影響を与えています。この結果ジンバブエのプラチナコストは12%の上昇となっています。


 ご存じのように2008年は3月にプラチナが2300ドルまで上昇しました。そして11月後半現在700ドル台と、なんと高値から3分の1までに価格が下落しています。プラチナの生産者にとっては一年のうちに天国と地獄が両方やってきたような一年であったはずです。

 実際ここまで価格が下落すると生産コストを下回るところも多くなっており、操業を中止するプラチナ鉱山が出てきています。相場が生産コストを下回ると経済的に生産は中止され、プラチナの供給が減り、相場が上昇する、ということになると思いますが、実際にマーケットはそうなるのか、現在のプラチナマーケットはまさにそういった重要なレベルまで来ていると思います。




自動車触媒のリサイクル
2008年12月3日

 先週までは鉱山でのプラチナ生産についてでしたが、今週は鉱山生産以外の部分を見てみましょう。鉱山生産以外で注目に値するのは自動車触媒のリサイクルです。


 上のグラフでもわかるように自動車触媒からのスクラップによる供給は南アに次ぐ生産国であるロシアの生産量を若干上回る28.8トンとなり、プラチナ全供給の12%に上っています。自動車触媒のスクラップからの回収は毎年伸びており、過去10年で60%も増えています。


●北米

 リサイクルが一番進んでいるのが北米です。ここでは70年代から自動車触媒技術が実用化されており、リサイクル市場も成熟しています。現時点で寿命を終える自動車はほぼすべて触媒が使われており、現在の触媒回収量は歴史的に触媒に使われたプラチナの割合がそのまま反映されているといえます。

 2007年のGFMSの統計では北米でのプラチナ回収量は17トンであり、世界全体の自動車触媒からの回収量の59%を占めています。現在回収の対象になっている自動車は1985年から1995年の間に製造されたものが大部分です。

●欧州

 欧州では1992年から本格的に自動車の排ガス触媒が使われはじめました。このため北米に比べると、まだまだこれからのマーケットであるといえるでしょう。現在、欧州で寿命を迎える自動車のうち排ガス触媒を利用したものはまだ60%以下です。ただし、2010年にはその割合が90%を超えると見られています。

 2007年の回収は7.7トンであり、2006年から24%の増加となっています。しかしながら実際には欧州での回収は本来の回収可能な触媒の量の45%しか回収できていません。市場自体がまだ成熟しておらず、回収が不効率なこともありますが、最大の要因は発展途上国への中古車の輸出です。約3分の1もの中古車が輸出されているといわれています。

●日本

 日本は北米と欧州が交じり合ったような状況です。歴史的に自動車触媒の導入は早く、回収市場も成熟しています。しかし一方で欧州と同じく中古車が大量に発展途上国に輸出されており、日本での触媒からのプラチナ回収量は控えめなものになっています。2007年の数字は1.9トンとされています。

 世界のその他の地域での回収量は2.2トンと見られており、これらの地域での回収はいまだ不完全であり、今後10年間で大きな伸びが期待できます。

自動車触媒以外のリサイクル

 近年特に日本と中国において、プラチナ宝飾品のリサイクルが非常に増加しています。これは、ひとえに価格の大きな上げがその原因といえます。特に日本ではおそらく10トン以上ものプラチナが宝飾品の形で回収され、海外に輸出されたのではないかと見られています。

 皆さんもここ数年、ありとあらゆる業者がその店頭に「貴金属買い取ります」といったのぼりを掲げているのを目にしたのではないでしょうか。プラチナ宝飾品の販売シェアは圧倒的に日本が大きいので、このような宝飾スクラップの回収は、日本および近年プラチナ宝飾が人気の中国に限られています。

 当然のことながら、圧倒的に売りが多いため、回収されたプラチナは宝飾品としてはリサイクルされず、主に輸出に回されることが多いのが現状です。ただし2008年後半のプラチナ価格の急落によりこの流れは急速にしぼむことが予想されます。




2. プラチナの需要
2008年12月10日

今週からはプラチナの需要サイドをみてみましょう。


 プラチナの鉱山供給の80%が南ア一国によるものという偏った構造になっていることは供給の章で触れました。需要面でもまたプラチナはその約60%が自動車の排ガス触媒に用いられており、用途が大きく偏っていることは否めません。生産量自体が金の約10分の1と、もともとの市場規模が小さい上、このような偏った需給構造のために供給、需要のどちらか一方または、両方のために相場が大きく動くことが大変多いメタルだといえます。

 2008年はまさにそれが極端に表れた一年でした。年前半は南アの電力不足、鉱山労働環境の問題から供給不安がクローズアップされ3月前半には2300ドルまで上昇しました。ところが金融危機が深刻化した7月以降は逆に景気後退から自動車触媒をはじめとする工業用需要の減少懸念が材料となり、2000ドルから800ドルまでの急落となりました。

A. 自動車触媒需要


 「触媒」とはそれ自身は変化をしないが、ほかの物質の化学反応のなかだちとなって、反応の速度を速めたり遅れたりする物質のことです。白金系金属(PGM)は酸素および水素を吸収して酸素・水素を活性化させる働きがあり、酸化還元触媒として用いられます。それを応用した自動車触媒は、排ガスに含まれる一酸化炭素と炭化水素を酸化して、炭酸ガスと水に、窒素酸化物を還元して窒素に変える役割を果たします。

 排ガスの温度は1000度以上にも達するため、融点が高く(1770℃)そして衝撃に強く化学的に安定した白金族は理想的な自動車触媒であるといえます。自動車触媒としての需要は日米の排ガス規制が始まった1970年代半ばまでさかのぼり、その後の相場の動きや需給関係、そしてディーゼルエンジンの普及などからパラジウムとプラチナの間で相互代替の動きが何度もありました。

 過去10年はプラチナの自動車触媒需要は増加の一途を辿ってきました。この傾向は2007年も変わらず年間の需要量は132.6トンで、前年からは4.2%の増加となりました。プラチナの触媒は主にディーゼルエンジンに対して使われていますが、ディーゼル車の増加と排ガス規制の強化によって需要も増加しています。しかしながらプラチナ価格の高騰からの使用量を減らす努力とパラジウムによる代替も2006年から始まり、自動車生産の割合から考えて本来増えてしかるべき量からは少ないものとなっています。

 パラジウムは主にガソリンエンジンの触媒として用いられていますが、ディーゼルエンジンにおいてもプラチナからパラジウムへの代替の動きは続くものと見られており、これまで増加し続けていた自動車触媒需要も、今後1、2年のうちに急速にペースダウンする恐れがあります。

 2008年後半現在、アメリカの三大自動車メーカーは事実上の破綻状態にあり、その上経済不況になりつつあるアメリカの自動車生産は今後激減し、アメリカの不況はそのほかの世界にも多大な影響を与えるでしょう。触媒需要もそれにより大きく減少する可能性が高く、マーケットはそれを織り込み下落していると考えられます。




B プラチナの宝飾需要
2008年12月17日


 自動車触媒に次ぐ需要分野は宝飾です。2007年の数字だと自動車触媒の133トンに対して46トンとほぼ3分の1の規模です。ただこの分野は過去6年間、下落傾向にあります。下のグラフを見てもらえれば一目瞭然ですが、宝飾需要が減る一方で自動車触媒が増えていったというのが過去6年の構図でした。



●中国

 宝飾需要の最大の需要国は中国です。2007年の宝飾需要は25トンと世界の宝飾需要全体の半分以上を中国一国が占めています。特に2003年に上海黄金交易所(Shanghai Gold Exchange:SGX)においてプラチナの取引がはじまってからは、海外から直接プラチナが輸入されるようになり、これが需要の伸びに結びついています。

 それまではプラチナの輸入に関してはロシアとの国境ビジネスの例外を除いては、基本的に増値税と呼ばれる付加価値が17%かかっていました。(ちなみにロシアとの国境では8%という税率でした)このため昔からプラチナは密輸が主な流入経路であったのです。しかしSGXで取引をすればこの増値税が免除されるということで、現在は中国に輸入されるプラチナのほとんどがこの「正規ルート」で入ってきているものと思われます。

 2007年はプラチナ価格が比較的落ち着いていたこと、結婚するカップルが多い状態が続いたこと、消費者の収入が増えたこと、株式市場が上昇していたこと(5月までは)などが宝飾需要が好調であった要因と考えられます。特に収入が増え、株価も上昇したことは、プラチナ宝飾の主な買い手である、都会の裕福な消費者層にとって大きな支援要因でありました。

 2008年は年初からの相場の高騰のため、中国の需要は大きく減少したと思われますが、相場が下がった年後半は大きく買ってきました。2300ドルから800ドルまで下落したマーケットで唯一の買い手であったと言っても過言ではなかったこともあり、一年を通した結果が気になるところです。

●日本

 日本は現在中国に次ぐプラチナ宝飾大国ですが、このところ大きくその需要量を減らしつつあります。2007年は6.2トンでした。この減少の最大の要因はやはり価格の高騰にあります。宝飾品全体のマーケットが縮小しつつある中、プラチナ価格の高騰が追い討ちをかけました。特に低価格帯の宝飾品はサイズを落としたり純度を下げることで対応すべきなのですが、プラチナの場合純度に対するこだわりも大きく、簡単には対抗策が見出せないでいるようです。

●北米

 北米も日本に似た状況であるといえます。2007年は6.1トンと前年比17%のマイナスとなっています。やはり価格の高騰によりプラチナの宝飾需要は減っています。

●欧州

 欧州は若干増加して7.8トン。これはアジア、ロシアや中東といったニューリッチな新興国に対する輸出が増えたためのようです。特に健闘しているのがルイヴィトン、ブルガリ、カルティエといった有名ブランドの輸出です。各ブランドとも前年にくらべて10−20%もの増加となっています。




2.プラチナの需要
2009年1月7日

C 化学需要


 化学分野でのプラチナ需要の大きな部分は硝酸触媒です。これは硝酸アンモニウム生産するための用途で、硝酸アンモニウムは農薬や鉱山開発用の爆薬として使用されます。農産物の価格が高騰したため、より多くの収穫を望む農民からの肥料の需要は増加し、この分野の需要も伸びているようです。石化分野ではパラキシレンの製造に使われており、特に中国での生産が盛んです。

D 電子需要


 電子需要も前年比で伸びています。これは主にハードディスクドライブ(HDD)での使用量が伸びていることが要因です。ディスクの表面に塗る磁性体にプラチナが利用されています。このディスクに磁気ヘッドを用いて情報を記録、読み出しをする仕組みになっています。

 2007年はコンピュータの売上が14%伸びており、それに比例してHDDの出荷も17%増加しました。パソコンへの用途のほか最近ではデジタルビデオやゲーム機、そしてカーナビなどにも使われています。

E ガラス需要


 ガラス業界は液晶画面(LCD)の生産が依然好調ですが、全体では前年比若干のマイナスとなりました。過去三年間、生産能力を大きく増加させてきたLCDですが、2007年は新たな生産設備拡大は少なくなり、少しスローダウンしました。しかしながら新たな拡張計画は立てられており、これは一時的なペースダウンと考えたほうがよさそうです。

 LCDテレビの出荷は2007年には前年比73%も増加しており、世界のテレビ市場のシェアの40%を占めているとのことです。年末時点でこれまでメインであったCRTから主役の座を奪ったようです。LCDはライバルであるプラズマディスプレイ(PDP)との競争でも、サイズ的柔軟性からPDPのメイン用途である大画面で検討しつつあります。今後50インチといった大画面に需要が移っていくと考えられており、LCD生産に使われるプラチナも増加していくと見られています。大画面に移っていくにしたがってLCDのガラス基盤も大きくなり、その結果ガラスを溶解する「るつぼ」も大きくなります。当然るつぼに使われるプラチナの量も増加することが考えられており、この分野は今後の伸びが期待できます。

 もう一つの分野としてグラスファイバーがあります。ここでは中国が最大の生産国となっています。過去三年間にその生産は倍になっています。しかしながら2007年は品質や環境問題のために政府からの規制が厳しくなり、大きな生産力拡張はない模様です。

F 石油需要


 この分野は2007年に大きく需要が伸びました。これは石油生産施設の増強がこの年に多く行われ触媒需要が増えたことによります。前年比38%増で7.7トンとなっています。

G その他工業需要





パラジウム
2009年1月14日

今週からパラジウムです。


1.供給

A 鉱山生産


 パラジウムの鉱山生産は、8割を南アが占めるプラチナとはずいぶんと事情が異なります。2007年の世界の鉱山生産218トンのうち第一位がロシアの95トン、第二位が南アの83トンと、この二国で約8割となり、北米の30トンを足すとほぼこれですべての生産量がカバーされます。

 2007年はプラチナと同様に南アでの鉱山の安全問題のために前年よりも鉱山生産量は減少しています。またロシアと米国でも同じように熟練工不足と労働環境の問題により、生産量を減らしており、ただ一国カナダだけが増加しています。

 南アではプラチナと同じPGM鉱床から生産され、その生産量はプラチナに比例しています。ロシアでは主にニッケルの副産物として生産されており、ノリリスク・ニッケルの一社がほぼ唯一最大の生産者です。


B 自動車触媒の回収


 自動車触媒からのパラジウム回収は年を追ってその量が増えています。特に2007年は過去はじめてプラチナの回収量(28.8トン)を上回る30トンという回収量になりました。

●北米

 最大の回収市場は北米です。70年代に世界で一番最初に自動車の排ガス規制が施行されたために市場は成熟しており、現在スクラップとなるすべての車に排ガス触媒が利用されています。パラジウムの回収の約60%にあたる20.3トンという数字になっています。

●欧州

 欧州では自動車がちょうど触媒を搭載しはじめた90年代からのものが、その寿命を終える時期に来はじめていることが大きな要因になっています。特に1990年代半からのものはパラジウムがメインの触媒であったために今後、これらの触媒の寿命を迎えるものは2010年頃まで増加傾向にあることが期待されています。

 2007年の欧州の自動車触媒からのパラジウム回収量は6.3トンになっています。ただし、欧州の場合は中古車のままの形でアフリカ諸国をはじめとする発展途上国に輸出されていることもあり、実際に使われている量に比べると回収量は多くないと言えます。

●日本

 日本は北米とならんで70年代から排ガス触媒が導入されていますが、欧州と同じようにアジア諸国への中古車の輸出も多く、使用量のほどには回収はおおきくありません。2007年の数字は1.8トンとなっています。




2.パラジウムの需要
2009年1月19日

 パラジウムもプラチナと同じく最大の需要分野は自動車触媒です。需要の約6割がこの分野です。その次は電子材料、そして宝飾、歯科材料となります。


A.自動車触媒


 2007年のパラジウムの自動車触媒需要は2001年以来の数字になっています。これはガソリンの触媒におけるプラチナの代替としてのパラジウムの利用がより増加したこと、また、本来プラチナが主体であるディーゼルエンジンの触媒分野でもパラジウムが本格的に使われ出したことがあげられます。

 特にガソリンエンジンは欧州以外の地域、中国、ラテンアメリカ、韓国、インドなどでの小型車の増加が拍車をかけている状況です。ただし、2008年以降は世界経済の大幅なスローダウンにより先行きは大幅な変化がみられそうです。

B.宝飾需要


 パラジウムの宝飾需要は中国が圧倒的にそのシェアを握っています。元来中国では金選好が強かったのですが、近年はその嗜好が「白物」に移っており、パラジウム、そして経済発展とともにプラチナの宝飾需要が伸びています。

 中国以外の国々では、パラジウムそのものの宝飾よりも金やプラチナとの合金のいわゆる「割りがね」として使われています。これらの宝飾の需要が減退したために日本の需要は減少しています。

 逆に北米や欧州ではホワイトゴールドの需要が堅調であり、2007年も若干ながら増加になっています。




2.パラジウムの需要
2009年1月28日

C.歯科需要


 日本での歯科需要が突出しているのはその健康保険制度が関わっています。健康保険の対象となるいわゆる「銀歯」は「金パラ12」がもっとも一般的であり、金12%、パラジウム20%、銀40%の合金です。政府の決めるこの合金の価格と実際の貴金属相場の関係により、この合金、ひいてはパラジウムの需要に影響を与えることになります。政府価格のほうが高ければ、需要は伸び、逆であれば需要は減ります。

 また近年はセラミック材料の進歩も著しく、特に「差し歯」を意識させないその「見た目」による需要は金パラ12のマーケットを浸食しつつあります。北米では、金とパラジウムの値差がひろがったことにより、パラジウムの割合がより高い合金が使われるようになっています。

D.化学需要


 パラジウムの化学分野での主な用途は、少し変わっています。主に農薬用の硝酸触媒に利用されるプラチナとロジウムの回収のための回収ガーゼとよばれる網に使われています。2006年があまりに好調だったが故に、2007年は前年と比べて減っています。世界合計で年間約12トンの使用量があります。

E.電子需要


 電子分野でのパラジウム需要は過去5年にわたって増え続けています。昨年は約40トンの需要がありました。このところ伸びているのは半導体セラミックコンデンサ(mult-layer ceramic capacitors:MLCCs)です。あらゆるハイテク機器でMLCCの利用が伸び、それがこの分野での需要を増加させています。

★池水氏によるブルースレポート
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底堅いプラチナ相場
2009年10月28日


 このところ金の話ばかりだったので、今回はプラチナ話です。最近は金相場の上昇があまりに脚光を浴びていますが、実は個人的にはプラチナのほうが上昇の可能性はずっと高いのではないかと思っていますし、いろんなところでそうしゃべってもいます。2009年10月末現在、1360ドルと昨年8月以来の高値圏にいます。

 金に比べてプラチナは非常にわかりやすいメタルだと思います。というのもそのファンダメンタル、つまり需給のバランスを注意してみているとはっきりと価格の動きが読めてくるからです。金と比べながらプラチナの特徴を浮き彫りにし、最近のマーケットを考えてみましょう。

1. 供給


 まずは供給サイドです。プラチナの鉱山生産の約8割近くが南ア一国によって占められています。これに対して金の場合は上位4ヶ国が200トン以上の生産をしており、プラチナにおける南アのような絶対的な供給国が存在していません。地理的にも世界中に普遍的に存在しています。そのため、新産金供給に対する大きな不安は存在しません。ところが、プラチナの場合はいざ南アに事があると、供給に大きな不安を落とすことになります。南ア一国の状況により、プラチナの供給の運命が握られていると言っても言い過ぎではないのです。

 ここ数年のプラチナの価格の動きを見てもそれは明らかです。2008年年初から9月にかけてプラチナ相場は1400ドルから一時2270ドルまで急騰しました。


 この動きの背景にあったのは2007年の鉱山での安全問題での労使対決、そしてちょうどその頃起こったAnglo Platinumの鉱山での洪水、などが上げられますが、それよりももっとも影響が大きかったのが南アの電力公社Eskomの電力供給能力の限界でした。

 南アの経済の急激な拡大に(エコノミストによれば、BRICsのsはSouth AfricaのSだ、という人もいたくらいです)電力の供給が追いつかなくなり、2008年1月25日に鉱山に対する電力の供給がストップしました。これは2月には再開されますが、それでもストップ前の90%ということで、鉱山生産はその安全対策(空調や水対策など)を電力に頼っており、これが完全に行われないことには鉱山労働者の安全確保ができず、生産は全くストップしてしまうことになります。そのため、南アのプラチナ生産量が年間10%減少するという見方が大勢を占め、供給不安が大きく取り上げられてこの歴史的高値への上昇となりました。

 やはり南ア一国がその供給量の八割を占めるという状況ではこのような南アの「国内の動向」が相場動向に対して非常に大きな影響を持つことになります。

 プラチナ相場の第一のポイント:南ア情勢。

★池水氏によるブルースレポート
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2. 需要
2009年12月2日


 さて、プラチナの話しに戻って、今週は需要サイドをみてみます。これもまた金と比べるとわかりやすいです。上の表は貴金属のメタルごとの加工需要です。

 金とほかの銀、プラチナ、パラジウムはきわめて対照的です。金は加工需要の約8割が宝飾品で、工業需要は残りの2割。ところがほかのメタルはその全く逆の割合です。銀、プラチナ、パラジウムが工業用メタルと呼ばれる所以です。宝飾用の需要はどうしても必要なものではありません。現在1000ドルを超える金価格で世界最大の金の需要国インドが今年はほとんど金を買っていません。宝飾の需要は価格に大きく左右されるのです。そのために極端な高値になると実需が減り、場合によっては、宝飾のセクターからの売り戻しが発生し、相場の頭を押さえることがままあります。

 ところが工業用需要の場合は宝飾需要のように、価格が高いからと言ってそれなしで済ますわけにはいきません。プラチナは価格がいくらであれ、自動車の排ガス触媒の主な材料として必要なのです。これがないと自動車は作れません。工業用需要は必要不可欠な需要だということができます。その需要が8割も占めるということは、これにより相場の動きが大きく左右されるということになります。

 2008年の6月以降の急落相場の最大の要因は経済危機と米国のGM、フォード、クライスラーのいわゆるビッグ3の事実上の破綻でした。経済危機での自動車の需要は落ち込み、それでなくても危機的状況にあったビッグ3の状況はさらに悪化。プラチナの最大の需要が無くなった上に、これら自動車メーカーが手元流動性を得るためにプラチナ、パラジウムやロジウムの在庫を一斉に売却しました。それがこの激しい下落の引き金を引いたと言えます。

 自動車を作る以上絶対に必要な排ガス触媒ですが、肝心の自動車が売れなくなり、その需要が大きく減退したのです。これはまさにプラチナの相場にとって致命的とも言える一撃だったと言えます。

 供給における南アの状況とともに需要における自動車産業の動向がプラチナの相場の行方を決めていると言ってもよいでしょう。

 プラチナ相場の第二のポイント: 自動車産業の状況

★池水氏によるブルースレポート
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Platinum 2009 Interim Review
2009年12月9日

 今週はPGMの続きで、2009年11月17日にJohnson Matthay社より発表された「Platinum 2009 Interim Review」の骨子をみてみましょう。

 このレポートは毎年二回発表されるもので、メインは5月。そして11月に中間レポートが入ります。今回のものは2009年の中間期のものです。PGMの業界では権威のあるものとして、時としてこのレポートの内容が発表直後にマーケットを動かすことがります。このレポートが発表されてからほぼ一ヶ月が経ちましたが、だいたい現在のマーケットと符号しているといえますね。以下要約です。

http://www.platinum.matthey.com/publications/pgm-market-reviews/

プラチナ

・2009年は14万オンス(約4.3トン)の供給過剰。需要は4.4%減少(27万オンス=約8.4トン)して5.92百万オンス(約184.1トン)。供給は1.9%増加して6.06百万オンス(約188.5トン)。プラチナの価格は年初の934ドルと弱かったが9月には1287ドルまで上昇した。

・供給:南ア4.73百万オンス(約147.1トン)、北米25万5千オンス(約7.9トン)、ロシア74万5千オンス(約23.2トン)

・自動車触媒需要:33%減少で2.48百万オンス(約77.1トン)となり主な市場での自動車生産の落ち込みをそのまま映す形となった。しかしながらこの落ち込みは自動車スクラップからのプラチナ回収減が28.6%になることによってある程度相殺されている。

・宝飾需要:79.5%増の2.45百万オンス(約76.2トン)。年初の低値により中国の宝飾業者の在庫の積み上げが及びその販売が好調だったことによる。日本では需要が増加したが、価格が下がったために宝飾の回収が減少したため。

・現物投資:13.5%増の63万オンス(約19.6トン)へ。コインと投資用地金9万5千オンス(約2.95トン)、ETFでの需要は北米のETFがまだ認められていないが、35万5千オンス(約11トン)へ増加。

・工業用需要:4年間の成長の後、31.5%の減少に転じ1.16百万オンス(約36.1トン)に。石油化学と電子分野の在庫の切り崩しが、需要減に響いている。ガラス産業では近年続いていた新たな工場の建設のペースが劇的に下がり、多くの液晶テレビ用ガラス工場の閉鎖も相次ぎ、90%もの需要減となった。

・プラチナ相場は2010年には需要の回復が期待されて、需給も引き締まると思われ、ファンダメンタルが価格を支えると思われる。しかしながら外部要因のほうがより重要になりそうであり、金価格が引き続き騰勢を続けるのであればこの先6ヶ月の間に1550ドルまで上昇の可能性があろう。もしドルが強くなるもしくは投資家が金への投資を手控えた時は同じ機関に1280ドルまでの下落があり得よう。

★池水氏によるブルースレポート
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Platinum 2009 Interim Review パラジウム編
2009年12月16日

 今週は同じくJM(Johnson Matthay) Report のパラジウムです。全体的にプラチナよりも強気のにおいがします。また中国の上海黄金交易所では来年2010年から、ゴールドとプラチナに加えてパラジウムも取引が始まることが決まりました。プラチナのみならず、パラジウムにおいても中国の影響力は増大することになると思われます。

パラジウム

・需給は65万5千オンス(約20.4トン)の供給過剰。世界の総需要は3.8%減って、6.52百万オンス(約202.8トン)へ。供給(ロシアの国家備蓄売却を含む)も1.8%の減少見込みで7.18百万オンス(約223.3トン)。価格は年初185ドルから始まって投資需要により58.9%上昇して9月末には294ドルとなった。

・供給が1.8%減少して7.18百万オンス(約223.3トン)となったのは2003年からの最低の数字である。北米およびロシアの鉱山生産は減少。南アの供給は増加し、ジンバブエも増加。ロシアの備蓄からの売却は前年と同じく96万オンス(約29.9トン)であろうと予測する。

・自動車需要:12.7%減少し、3.9百万オンス(約121.3トン)。自動車生産の減少により、日本、北米その他の地域で需要は減少。中国の需要は13万5千オンス(約4.2トン)増加。ヨーロッパの需要はわずかながら減少だがほぼ変わらず。これは自動車生産の減少にもかかわらず、ガソリンエンジンのシェアの増加とディーゼルエンジンへの利用が増加しているため。

・宝飾需要:7.6%増加の見込みで92万オンス(約28.6トン)。ヨーロッパと北米で宝飾用メタルとしての地位を確立しつつある。中国のパラジウム宝飾マーケットは成熟の段階にあり、需要は68万オンス(約21.2トン)に増加するもののこれは、スクラップの回収が減っているため。

・現物投資:51.2%伸びて63万5千オンス(約19.8トン)へ。コインと小型の地金が北米で伸びている。またETFが37万オンス(約11.5トン)から54万オンス(約16.8トン)と大きく増加。これは2008年の高値から価格が下がったことにより投資家が戻ってきたことによる。

・工業需要:9.1%の減少で1百万オンスに。経済不況により、生産量が減少し需要が減っている。歯科需要は3.2%減少し、60万5千オンス(約18.8トン)。その他の工業用需要は3.5%減って、41万5千オンス(約12.9トン)に。

・パラジウム価格は2009年の1−9月は投資家がロングを積み上げることにより、非常に力強い展開であった。もしこのファンドの買いが続き、自動車生産が改善されるようであれば、これから6ヶ月の間に390ドルまでの上昇が予想される。しかしドルが買い戻されて金が売られることがあれば、同じ期間で290ドルまでの下落も考えられる。

★池水氏によるブルースレポート
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プラチナの流動性 〜 米PGM ETF上場の影響とプラチナ相場の今後
2010年01月27日

●プラチナETF


 2010年1月8日にアメリカで初めてのプラチナとパラジウムのETFがスタートしました。驚くべきことに取引が始まってたった一週間でプラチナが約2.8トン、パラジウムは約3.1トンの残高に達しました。このアメリカのETFが上場される前はロンドンとスイスにPGMのETFは存在していました。しかしロンドンのプラチナETFがこのレベルまで到達するのに32週間、スイス(ロンドンとほぼ同時に始まりました)とロンドンを併せても28週間という時間がかかりました。このペースで行くと現在のロンドン(13.6トン)とスイス(7.7トン)のPT ETF残高に追いつくのにそれほど時間がかからないと思われます。

 現在の地上在庫を考えてみましょう(数字はすべてStandard Bank調べです)。

プラチナ地上在庫  48.8トン
世界のETFの合計 26.3トン
バランス      22.5トン(Loco Zurich 18.2トン+ Comex在庫4.3トン)

 分かり易くするためにこの状況を2008年4月と比べてみましょう(ちょうど南ア電力公社Eskomの電力供給の問題が出て数週間の時期です)。

プラチナ地上在庫   39.8トン
世界のETF残高合計 15.5トン
バランス       24.3トン

 この時のプラチナ価格は1900ドルでした。現在はその時よりも流動性が少ない状況です。それでいて価格は1550ドル。おそらくこのETFは今後も残高を増やしていき、さらにプラチナの地上在庫の減少に拍車をかけるでしょう。

●南アフリカのリスク

 特に今年2010年は6月、7月にかけて南アフリカでワールドカップが開催されます。南アは世界のプラチナ生産の8割を占めています。その最大の不安材料である電力不足がこのワールドカップで再び危機的状況を迎える可能性は捨て切れません。

●中国の買い

 また1650ドルの高値から1550ドルへの1月後半の反落によって、中国の上海黄金交易所(プラチナも取引している)では、非常に活発な取引となり、その出来高が急増しています。明らかに安値拾いの積極的な買いが入ってきています。

●自動車産業の復調

 そして需要の7割を占める自動車産業の回復基調が予想されています。アメリカでは2010年は前年比20%の売上げ増を見込んでいます。また昨年アメリカを追い越して世界最大の自動車市場となった中国では、昨年の1360万台から1500万台への自動車販売増が予想されています。

 こういった状況を考えあわせるとやはりプラチナは強気のスタンスにならざるを得ません。現在の1500ドルはz割安ではないかと感じますがどうでしょうか。

2010年1月26日記
Bruce池水

★池水氏によるブルースレポート
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